今国会最大の焦点と言われ、今日から審議入りしたテロ特措法問題ですが、一体政府・与党は何を議論しているんでしょうか。また野党・民主党は何を議論しようとしているんでしょうか。さらにアメリカは何を言いたいんでしょうか。
自民・公明が歴史的大敗を喫した7月29日後、8月・9月頃は小沢一郎・民主党代表の影響で「国連によるオーソライズ」が問題となり、9月・今月は「日本の給油した燃料のイラク戦転用」ばかりが騒がれているようです。
しかし、アメリカが2001年10月7日に「自衛権の行使」として始めた対アフガニスタン報復戦争は、テロリストたるアルカイダを支援するタリバンを叩いて「テロを無くす」ためだったはずです。日本のテロ特措法はこの「テロを無くす」ことを応援するためだったはずです。
ところがそれからの6年間、アフガニスタン国内ではもちろん、ヨーロッパでも中東でもアジアでもテロは増大し、拡散してきました。一時は掃討されたタリバンも今ではアフガニスタンの半分くらいを支配するほど盛り返してきました。アフガニスタン国内でも世界でもテロによって殺される一般市民は増大するばかりです。
「テロを無くす」ために対アフガニスタン戦争を6年もやり続けているのに、結局「テロは増大」している訳です。
これは言われるがままに対アフガニスタン戦争を応援し続ければ、つまりインド洋で給油活動を継続すれば、「国の国益、国際社会に対して果たすべき責任」になると言って済ませている場合ではないということでしょう。
「テロを無くす」ためにどうすべきか、もう1度真剣に議論すべきだということではないでしょうか。
この対アフガニスタン戦争はアメリカ軍の作戦名で「不朽の自由作戦」(Operation Enduring Freedom / OEF)です。日本が応援してきたのはまさにこのOEFです。また与党提出の新法によって応援しようとしているのもこのOEFです。政府・与党は新法ではこのOEFの中の海上阻止活動(Maritime Interdiction Operation / MIO)に限定するから問題ないと言っています。
そして確かに、18日に発表されたアメリカ国防総省の声明は、「日本からの給油を受けたすべての米国艦船は、OEFを支援するために日本からの給油を受けたことを確認した(The U.S. Government has confirmed to the GOJ that every U.S. ship that received Japanese fuel in the U.S. Central Command (CENTCOM) area of operations did so in support of OEF)」、「米国政府は、日本がOEFに参加する艦船のみに燃料を補給するという日本政府との合意に、誠実に従ってきた(The U.S. Government believes that it has faithfully complied with its agreement with the GOJ to provide fuel only to ships involved in OEF)」、「日本が供給した燃料はすべて、OEFに参加した艦船が消費したと説明することができる(The entire Japanese contribution can be accounted for by fuel used by ships engaged in Operation Enduring Freedom)」と述べて、日本の給油がOEFのためであることを真正面から認めています。
他方、アメリカはこの声明で「艦船は複数の任務に就くこともある(ships may be engaged in multiple missions)」とも述べています。日本政府が新法で給油はOEF-MIOに限定すると書いても、アメリカは給油を受けた艦船を他の任務に就かせるということです。
この声明を聞いた石破茂防衛相は「唯一の同盟国である米国の表明を信頼するのは当然、政府としてあるべきこと」と述べたそうですが、その通り信じるべきです。確かにこれが事実でしょうから。
しかし、だからこそ、論点は「OEFの支援の是非」になるはずです。OEFを続けてアフガニスタンを空爆し何の罪もない一般市民を巻き添えで殺害することの是非、そのためにアメリカなどに抵抗するタリバン・アルカイダにアフガニスタン人が共感することの是非、そのためにアフガニスタンでも世界でもテロがどんどん増大していることの是非等々が論じられるべきなのです。
ところが、あろうことか福田康夫首相は16日、この点を真正面から問題にした日本共産党の小池晃参議院議員の質問にキレてしまったそうです。言うに事欠いて「いくら議論したって賛成とは言わないんでしょ。結局、そうなんでしょ」。
短いからこれを伝える日経新聞17日朝刊の記事を引用しておきましょう。
短気の虫 お目覚め?
首相、答弁で声荒らげる
「いくら議論したって賛成とは言わないんでしょ。結局、そうなんでしょ」。就任以来、低姿勢が売り物の福田康夫首相が16日の参院予算委員会では珍しく声を荒らげた。燃料転用疑惑をただす共産党の小池晃氏のしつこさに辛抱できなくなったようだ。
政府・与党内の見方は「本来の短気が顔をのぞかせた」「下手に出るのは民主党相手だけ」などというもの。本人は記者団に「低姿勢ですよ、あくまでも。これで低姿勢じゃないって言うんだったらちょっとおかしい」と不満そうだった。
小池さんの質問は「燃料転用疑惑をただす」ものでなく、「OEFの支援の是非」を問うものですから、この記事は国会での議論を偽るものですが、しかし、福田さんがこの質問でキレるということは、「OEFの支援の是非」を議論したくないということに他なりません。訊かれたくないことをしつこく訊かれたからキレた訳です。
政治家たる者問題から逃げてはなりません。この国会では、「OEF支援の是非」こそが議論されなければなりません。報道もそこに焦点を当てるべきです。
テロ事件はアメリカの9・11だけでなく日本でも起きました。1995年3月20日、オウム真理教が東京でサリンを撒きました。このときも「テロを無くす」ために、アメリカ軍が東京を始めとする日本中を空爆すべきだったのでしょうか。実際には日本は警察と司法で対応しました。ブッシュ大統領のアメリカと違って日本は愚かだったのでしょうか?
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アメリカの声明、21日の志位和夫・日本共産党委員長の記者会見、小池氏の質問を引用しておきます。
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