ベネズエラ、大統領などの三選禁止を撤廃(2009.02.15)
去る15日、ベネズエラで、大統領などの再選制限規定を撤廃する憲法修正が、概ね55%(約600万票)対45%(約504万票)(開票率94%)で承認されました。ベネズエラでの、アメリカ言いなりを拒否した国民本位の国づくりという社会変革過程の1歩前進として、この結果を一先ず喜びたいと思います。
反対派は、この憲法修正を、独裁色の強化として反対したようですが、首相にも国会議員にも、また県知事や市長にも再選制限などない日本が独裁国家などと評価されることがないことからして、これはそもそも成り立たない批判でした。
また、ラテンアメリカでは、大統領や国会議員が汚職にまみれ、権力を乱用する例が多く、これを防ぐという理由から、ほとんどの国で再選回数の制限が設けられて来たそうですが、「反対派の中核をなす学生」(毎日2月13日付)が「07年5月、政府がチャベス大統領を批判した民間テレビ局の放送免許更新を認めなかったこと」に反対しているようでは(同上)、これも説得力がありません。
なぜなら、当該テレビ局は、2002年4月にチャベス反対派が、軍事力によって独裁政権を樹立すべくクーデターを起こしたとき、虚偽の報道を繰り返し流すことによってクーデター遂行に深く主体的に関与した政治勢力であって、単なる言論機関ではないからです。このような政治勢力が何らかの実効性ある規制を受けるのは、民主主義と法の支配を維持していく上で当然なされるべきことで、それはテロリストを始めとする犯罪者が法的に規制を受けるのと同様のことです。反対派が独裁反対を言うなら、このクーデターに確固として反対すべく、この放送免許の非更新を民主主義のためには当然のこととして支持しなければなりません。
ただ、ベネズエラでは、国民の投票(意思)によって政治的選択を決して行くというやり方が定着してきていることも、今回の国民投票は示してくれたようです。CNN電子版2月16日付に依れば、
結果判明に先立ち、反政府系紙ウニベルサルは、反チャベス派の学生運動指導者が、国民投票の結果を尊重する意向を表明したと伝えた。指導者は『われわれは民主主義と憲法を信じる。いかなる結果でもそれを認める』と述べた
そうですし、AFP電子版2月17日付に依れば、
米国務省のノエル・クレイ(Noel Clay)報道官は17日、ベネズエラで15日に行われた憲法修正案の承認を求める国民投票が民主的に実施されたことを歓迎し、ベネズエラに民主主義と寛容の精神を支持するよう求めた
といった点にもそれは現れていると思います。
ベネズエラにはまだまだ課題が山積みのようです。日経2月17日付に依れば、
・・・〇八年のインフレ率は前年比三〇・九%増と六年ぶりの高水準。スーパーの店頭では砂糖など価格統制対象品が姿を消すことがある。採算割れを嫌うメーカーが生産を手控えるためだ。
頼みの綱だった石油を巡る環境も一変した。政府の歳入のうち約半分を石油輸出が占めるが、ベネズエラ原油は現在一バレル三五ドル程度で推移。政府は同六〇ドルを前提に〇八年予算を作成しており、歳入不足を補う具体策は見えない。
もっと深刻なのは生産量の低下だ。英BPによるとベネズエラの原油生産量は一九九八年から〇七年の間に二五%減った。国営石油会社PDVSAが貧困対策などへの拠出を政府に強いられ、既存油田の生産量維持に必要な投資を続けてこなかったからだ。(カラカス=檀上誠)
という状況のようですから。
「国民の投票(意思)による選択」という手段で、「アメリカ言いなりを拒否した国民本位の国づくり」という社会変革を一層進めていって欲しいと思います。
関連するしんぶん赤旗の記事/論説を引用しておきます。
2009年2月17日(火)「しんぶん赤旗」
【カラカス=島田峰隆】南米ベネズエラで十五日、大統領や州知事、国会議員などの三選制限を撤廃する憲法修正の是非を問う国民投票が投開票されました。全国選挙評議会が同日夜、開票率94%の段階で発表したところでは、賛成54・36%(約六百万票)、反対45・63%(約五百四万票)で、修正案は賛成多数で承認されました。棄権は約33%でした。
今回の国民投票は、チャベス大統領の就任からちょうど十周年の時期に行われました。国民の多くは、新自由主義と対米従属から決別し、貧困層を支援する同政権の社会変革を継続・発展させる方向を選択したといえます。
チャベス大統領は十五日夜、カラカス市内の大統領府で、「明確な勝利だ。今日われわれは未来へ扉を開いた」と勝利宣言しました。
同大統領は「尊厳のなかった過去へは後戻りしない」と変革の継続を約束。二〇一二年に予定される次期大統領選への立候補に意欲を示しました。さらに「人間の尊厳への道は社会主義だ。真の社会主義への歩みを強めるよう呼びかける」と語りました。
与党、統一社会主義党の党員や支持者らは、全国で旗やプラカードを持って通りに繰り出し、勝利を祝いました。
反対派の学生運動指導者は、「結果を受け入れる」と表明しました。
チャベス政権は、豊富な石油資源の収入を使い、無償の教育や医療、職業訓練、市場価格より食料品を安く売る店の設置など社会計画を進め、貧困を大きく減らしました。チャベス大統領は、「変革の深化にはさらに十年は必要」と述べ、憲法修正へ支持を訴えました。
二〇〇七年十二月には、憲法に社会主義の方向性を盛り込み、大統領の三選制限を撤廃する改正の是非を問う国民投票が行われました。この時は反対がわずかに上回り、修正案は承認されませんでした。
2009年2月18日(水)「しんぶん赤旗」
ベネズエラ大統領3選禁止撤廃
国民投票が示したもの十五日実施のベネズエラの国民投票で、米国言いなりを拒否し国民本位の国づくりを進めるチャベス政権が提起した憲法修正案が、55%の支持で承認されました。これによって、大統領、国会議員、自治体首長などの公職について、これまであった再選回数の制限(大統領の場合は一回まで)が廃止されます。
《制限なしでも「選出は投票によって」》
国民投票の設問は、現職にあるものが再選に向け候補者となることができるという「国民の政治的権利を拡大した」修正案を承認しますか、というものでした。再選される職務も「憲法に定められた期間」(任期)に従い、「選出は国民の投票によってのみ行われる」との補足説明がつけられています。
今回承認されたのは、現職の大統領、議員らの立候補回数の制限の撤廃であり、任期満了になれば新たな選挙で国民の審判を受ける仕組みは当然残されています。
「立候補制限廃止=終身制・独裁」という批判がありますが、与党側はこうした仕組みを説明しつつ、「憲法改正が大統領の自動的な再選を保障するものではない」と反論してきました。
チャベス大統領は現憲法下で実施された二回の大統領選挙(二〇〇〇年、〇六年)で当選し、任期六年ですから、次回二〇一二年の選挙には立候補できない状況にありました。与党側は憲法修正の意味を、「国民の選択肢を広げるもの」と説明。宣伝物でも、同大統領の立候補を可能にすれば「よりよい社会実現へ必要な変革を継続できる」と解明していました。
一方、反対票も45%に達し、一定の支持を得ました。
ラテンアメリカでは、大統領や国会議員が汚職にまみれ、権力を乱用する例が多く、これを防ぐという理由から、ほとんどの国で再選回数の制限が設けられてきました。
しかし、ベネズエラの場合、米国やこれに支援された野党勢力の抵抗にあいながら、国の仕組みを大きく変える事業が進められています。
中小企業経営者を中心とするベネズエラ企業家連合のウスカテギ会長は、中小・零細企業を重視する方針をとっている現政権を評価し、「経済の自主的な成長を促す(革命の)プロセスの継続を保証するために」憲法修正が必要だと主張していました。
《投票で国民の意思を確認して進む改革》
重要なのは、今回のように与野党が厳しく対立する問題でも、国民の意見を集約する国民投票というやり方で決着がつけられたことです。
与党の憲法修正運動の責任者は、チャベス政権になってからの各種の選挙や国民投票は「今回が十五回目」であり、「国民はわが国の民主主義の参加型の性格を理解している」と語り、投票に参加した人々に「祝意」を送りました。
中南米十八力国を対象にした世論調査によると、政治の変革に影響を与える効果的な手段として「投票」と回答した割合はベネズエラが最も高く、80%に達しています(ラティノバロメトロ08)。
今回の結果は、投票によって国民の意思を確認しながら進むベネズエラの改革の姿を改めて鮮明にしたともいえるでしょう。(党国際局・菅原啓)
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