風知草:外交における信頼とは=山田孝男(毎日新聞 2009年11月16日 東京朝刊)
ここに引用されている、不破哲三氏の『激動の世界はどこに向かうか/日中理論会談の報告』は、僕もとても面白く読んだので、この毎日新聞の記事を引用したくなっちゃいました。
ついでに、東大の駒場キャンパスで開かれた公開連続セミナー「マルクスは生きている」についての、しんぶん赤旗の記事も引用しておきます。
風知草:外交における信頼とは=山田孝男
(毎日新聞 2009年11月16日 東京朝刊)鳩山語録が荒れている。先週、首相はデタラメな資産報告について記者に聞かれ、「恵まれた家庭に育ったから」だと答えた。そんな理由があってたまるかと世間は怒った。
もう一つ、首相は官邸を訪れた中国要人にこう言った。「われわれは小沢(一郎)首相をつくるために活動していたのですが、結果として私がなってしまいました……」
事実その通りの経過ではあったけれども、今さらそれを言ってどうするのか。実権は小沢が握っていることをあえて伝えたとでもいうのか。
二つの逸話に共通しているのは、中途半端な率直さで相手に迎合する「恵まれた男」の甘さだ。言わずもがなの一言で墓穴を掘る危うさだ。
この特質は、米軍飛行場の沖縄県外移設を言うそばから前言をボカし、アジア重視と日米同盟を交互に叫ぶせわしさと無関係ではあるまい。先週末の日米首脳会談でこの悪癖が出なかったかどうか--。
小沢の12月訪中が決まり、民主党国会議員秘書会と中国大使館の懇親会も開かれた。民主党と中国の交流が急速に広がる中で、不破哲三(79)=前共産党議長=の新著「激動の世界はどこに向かうか/日中理論会談の報告」(新日本出版社)を面白く読んだ。
中国共産党の理論家たちが不破を質問攻めにしている。
「今回の金融危機の根源を何と見るか」「マルクスの資本論で説明できるか」「アメリカはどう出るか」「社会主義国は危機に強いか」「中国のリスクは何か」……。
不破はマルクス、エンゲルス、レーニンの博引旁証(はくいんぼうしょう)をもって丁寧に答えている。
まもなく日本を抜き、世界第2の経済大国になろうという中国は、急成長とともに貧富の差が広がり、平等、公正の象徴として毛沢東が根強い人気を保っているという。
1966年、36歳の不破は宮本顕治を団長とする日本共産党訪中団に加わり、毛との会談決裂を経験した。毛が共同コミュニケでソ連批判を求め、宮本はベトナム支援の統一戦線構築を理由に拒んだ。
そこに至るまでの宮本の交渉相手が劉少奇、周恩来、トウ小平。不破も同席した。
以来、日中の共産党は断交し、反目し、32年後の98年、和解した。党幹部と学者を交えた理論会談は05年から。世界金融恐慌を経た今春、北京で開かれた3回目は一段と白熱した。資本主義か社会主義か。その議論の記録が前掲書である。
不破は共産党の書記局長、委員長、議長などを36年間務め、旧ソ連共産党とも対立し、和解した。中ソの違いを聞くと「ソ連は生き馬の目をぬくようなところがあり、交渉はいつも後味が悪かった。それに比べると中国は率直」だという。
今春出した「マルクスは生きている」(平凡社新書)が6万5000部。鳩山政権評を求めると、百戦錬磨のコミュニストは、こう答えた。
「我々も政治を変えたいのでシミュレーションとして注目していますが、難点がちょっと早く出過ぎている」
「対米関係で言えばね、外交の信頼はアダ名(=ママ。ファーストネームのこと)を呼び合って生まれるわけじゃない。現実の懸案をぶつけ合い、お互いの立場と、立場の違う問題に対する誠実さを確かめ合って生まれるものです」
含蓄が深い。(敬称略)(毎週月曜日掲載)
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