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2009年12月13日 (日)

井上文夫『時をつなぐ航跡』

 山崎豊子さんの『沈まぬ太陽』を読んだのをきっかけに読みました(この作品と、それを基にした映画についてのささやかな感想は、12月6日の記事)。静かな感動がいつまでも残る、とても素晴らしい作品でした。

 『沈まぬ太陽』1、2巻は、1960年前後、日本航空が日本航空労働組合に加えた分裂と差別・弾圧の攻撃を描いているのですが、この『時をつなぐ航跡』は、それ以降の日本航空客室乗務員組合のたたかいを描いています。この客室乗務員組合は、元々は、日本航空が日本航空労働組合に仕掛けた分裂攻撃によって生まれた組合だそうですが、会社側のあまりに理不尽な労務政策のために、組合員自身の意思によって会社とたたかう正常な組合になったものだそうです。

 『沈まぬ太陽』のモデルになった小倉寛太郎(おぐら・ひろたろう)さんと佐高信さんの対談を収めた『企業と人間-労働組合、そしてアフリカへ』(岩波ブックレットNo.521、2000年発行)によれば、日本航空の労働組合には、会社によって作られ連合(日本労働組合総連合会)に加盟している全日本航空労働組合の他に5つあって、元々の日本航空労働組合、それから日本航空客室乗務員組合、日本航空乗員組合、日本航空先任航空機関士組合、日本航空機長組合とあり、この5組合が日航5労組連絡会議を作り共にたたかっているようです。きっと会社側の執拗な分裂工作とその失敗がこのような状態を作り出しているのだろうと思います。

 本作品は、この日本航空客室乗務員組合の組合員で50歳前後の女性が主人公です。作者の井上さんも元日本航空労働者だそうですから、同じ組合員だったのでしょうか。

 物語は、この主人公の客室乗務員としての仕事を丁寧に描写していきながら進められます。そのため、この仕事と職場の様子が自然と良く理解でき、従って、そこから生じる問題もよく分かります。他方で、何も分からぬまま強制的に会社側の組合に加入させられている労働者を主人公の周りに配置し、彼女等が直面させられる問題とその心情も、主人公との交流の中で丁寧に描いているので、なおさら良く理解できます。

 小倉寛太郎さんは、上記のブックレットでも(p.p.10-11)、また『自然に生きて』という著書の中でも(2002年発行)、300人ほどの日本航空労働組合の過半数が会社側の組合(組合員は1万人ほど)からわざわざ移ってきた人達だと言っています。そして、そうなった根本は以下の点にあると言います。すなわち、徹底的な職場討議で徹底的に話し合うこと、徹底的な宣伝活動、非組合員にも管理職にも配る要求のアンケート活動(300人の組合員で配って3,500-4,000枚回収できるそうで、もちろんその結果もビラにして出します)、それに基づく会社への要求と交渉、さらに、関連事業、関連産業、下請けの人達の労働者組織を手伝うこと(『自然に生きて』p.p.73-80)。

 本作品でも、日本航空客室乗務員組合とその組合員のこのような活動が描かれています。人はいかに生きるべきか、どのような生き方が幸せなのか、本作品はこのことを具体的に、また優しく無理なく指し示してくれ、生きる展望と勇気を与えてくれました。

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