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2008年6月 5日 (木)

映画「終わりなし」

 クシシュトフ・キェシロフスキ監督。

 ポーランドで1981年12月から翌年12月まで敷かれた戒厳令違反として逮捕された工場労働者を釈放させる話を副次的な軸としながら、その事件の弁護士を突然の死で失った妻がその喪失感と格闘していく話。

 事件を引き継いだ老弁護士は、亡くなった弁護士とは異なり、また最初の労働者本人の意向とも異なり、真実を明らかにすることや体制と闘うことよりも、体制と妥協して釈放されることだけを求めます。他方、妻は亡くなった弁護士の夫を忘れることがなかなかできません。生前の夫の愛情の表れとしての嫉妬心を垣間見て愛おしさを募らせたり、自分と出会う前に夫が心を寄せた女性を知って嫉妬したり、夫を忘れようと行きずりの男に身を任せたり催眠療法を受けたりします。しかし忘れられません。

 労働者は、結局新たに付いた老弁護士の意見を受け入れて、ハンストでの抵抗を止め、体制側が新たに作った労働組合の支持を得ます。その結果、戒厳令違反で有罪ながらも執行猶予となり釈放ということになりますが、その判決を聞いても喜べません。そこに老弁護士は亡くなった弁護士の妻に向かって以下のような詩を読み上げ、それを聞いた労働者は何かに気付かされます。

なぜそうなったか分からない
私の狼の心がみじめな犬になった
口の中を吹く風がやんだのか
生気のない目で空を見られない
炎の代わりに恐怖の光が
背骨で浮かれる
誰も私に首輪をくれず
誰も捜さなかった
私はみじめで卑しい使徒なのだ
主よ
地をはう者も愛し
ミミズにまで誇りを与えられる主よ
わが喉を開き叫ばせたまえ
嘆く私にも自由なる生を与えたまえ

 同時にそれを聞いた妻は、無理に夫のいない世界を受け入れることを止め、死ぬことによって夫のいる世界を選びます。

 示唆的で考えさせられる作品です。

 労働者は体制に屈服し、妻は夫の死を受け入れられず負けて死を選んだ、という風に単純に理解すべきではないと思います。

 作品中で描かれる体制への抗い方は、極端で情緒的なものであって現実的・理性的なものではなく、従って明らかに成算のないものです。つまり、当時のポーランドの労働者の中にあった、少なくともキェシロフスキ監督の目に映った抗い方は、本来否定されて然るべきものでした。否定されるべきものを否定し選ばなかったからと言って、それを単純に屈服と評価すべきではありません。

 これは、妻の夫の死への抗い方にも当てはまることです。「トリコロール/青の愛」(3月2日の記事)で類似の状況に置かれた妻が描かれますが、そこではこの作品からさらに一歩深められていると思います。

 また、キェシロフスキ監督は、この作品を機に政治的テーマから離れ個人的テーマへと移行して行ったという理解があります。しかし、その理解も未だ単純すぎるものと言うべきではないかと思います。

 キェシロフスキ監督は、他の様々な現実と共に、政治的現実をもきちんと見て描いてきた監督です。つまり、政治を含むあらゆる現実から目を背けなかったからこそ、これ以降の「デカローグ」、「ふたりのベロニカ」、「トリコロール」といった作品が生み出されたのではないでしょうか。政治という特定の現実を避けて生きているような人物からは生み出されない深みが、それらの作品にはあるような気がするのです。

 政治的テーマから離れ個人的テーマへと移行して行ったという理解には、安易に政治的現実を忌避して目を塞いでしまう、未熟さや軽薄ないし軽率さが刻印されているように思えます。

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