人々の意思が政治を動かし、「紛争の平和的手段による解決」、「人に値する生活」を求めている―朝日社説「消費増税なしに安心は買えぬ」にも触れて
2007年の政治を記憶に頼ってざっと振り返って思い浮かぶことは、やはり何と言っても(1)7月29日の日本の参院選での自民・公明の大敗北です。
さらに年末には注目の投票が相次ぎ、興味深い結果となりました。まず(2)2日のベネズエラ憲法改正国民投票でのチャベス大統領の敗北であり、続いて(3)19日の韓国大統領選でのイ・ミョンバク(李明博)氏の勝利、(4)23日のタイ総選挙でのタクシン前首相派「国民の力党」(PPP)の勝利です。
まず第1に、(1)-(4)いずれも時の権力者の意思に反対する世論(国民の意思)が形成され、しかもその世論が時の権力者に勝利した事件として目を引かれました。
しかも第2に、その世論(国民の意思)に共通する基礎は、「政治に対して『人に値する生活』の実現を何よりも求める」、という意思があったことに、さらに注目させられました。(1)(3)(4)の結果は明らかにそういう意思の積極的な表現ですし、(2)の結果は、憲法改正案が「人に値する生活」の実現に必要なものだとは理解されなかったという意味で、そういう意思の消極的な表現だと思います。
さらに第3に、(4)の結果は、クーデターという軍事力による政権交代を真正面から否定したものでした。(1)の結果は、アメリカのアフガン報復戦争という「戦争によるテロ問題の解決」を否定する帰結をもたらしました。また、アフガニスタンに限らず、「アメリカが行う『紛争の戦争による解決』への日本の能動的参加」という改憲路線を進めた安倍政権を崩壊させました。(3)の結果は「北朝鮮問題の平和解決」を当然の前提とするものであり、それを否定するものではありません。
すなわち、(1)(3)(4)の結果は、「紛争の平和的手段による解決」という流れを強化するものでした。
加えて、「人に値する生活」の実現は、「紛争の平和的手段による解決」を当然の論理的前提とします。戦争のある所で「人に値する生活」を実現することなど全く不可能だからです。
以上、「紛争の平和的手段による解決」を当然の前提として、「人に値する生活」の実現を政治に求めるという人々の意思が明確になり、しかもその意思が直接に政治を変えるという事態が世界中あちこちで起きている。2007年はこのことを強く印象付けてくれた1年だったと思います。
参院選の結果に示された通り、これまでの自民・公明の政治は「人に値する生活」を実現するものでないことは、もはや明白です。自民党と公明党がやってきたこと、今やろうとしていることと同じことをやったのでは、「人に値する生活」の実現は不可能であることは既に実証済みです。ではどうやれば実現できるか、どの勢力、どの政党がそれを実現できる政策を持ち、かつ実行するか。このことが、今度の衆院選とこれからの政治にますます鋭く問われてくると思います。
にもかかわらず、朝日新聞は2007年12月9日に消費税導入をあおる社説を掲載しました。「人に値する生活」の実現を明らかに阻む議論です。題して「消費増税なしに安心は買えぬ」。この社説は、これお・ぷてらさんのブログ「花・髪切と思考の浮游空間」の記事で知ったのですが、時の権力者の作り出す流れに押し流され追随していく哀れな大新聞の一例として以下に引用しておきます。大いに嗤いましょう。
消費増税なしに安心は買えぬ(朝日新聞 2007.12.09)
希望社会への提言(7)
・守るべき福祉水準と負担増をセットで示す
・必需品は軽減税率、コメなどは非課税に現行水準の福祉サービスを守り抜く「安心勘定」と、血のにじむ歳出削減を担当する「我慢勘定」とに財政の仕組みを分けて、高齢化社会に立ち向かおう。前回はそんな提案をした。
繰り返しになるが、福祉水準を維持していくと、国と地方を合わせた財政負担が、25年度には06年度より20兆円前後も増えるだろうと大まかに試算できる。
一方の「我慢勘定」でも、歳出削減で借金漬けの財政を立て直し、国債がこれ以上増えないようにするのは難事業だ。できるだけ経済の成長力を高めて税収を増やしても、福祉の「安心勘定」へ回せる財源は多くを期待できまい。
将来を見通せば、増税による負担増は避けられない。そう覚悟を決め、あえて大胆に発想を転換しないことには、社会保障の基盤を固めて希望社会への道筋を描いていくことはできないだろう。
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では、その負担増をどの税金でおこなうか。それはやはり消費税を中心にせざるを得ない、と私たちは考える。
消費税は国民が広く負担する税金だ。国民みんなが互いの生活を支え合う社会保障の財源に適している。
また、少子高齢化が進むにつれ、所得を稼ぐ現役世代は減っていくので、現役にばかり負担を負わせるわけにはいかない。一方で、所得の少ない高齢者のなかにも、現役時代の蓄積で豊かな層がある。こうした人々にも、消費する金額に応じて福祉の財源を負担してもらうことは理にかなっている。
所得税や法人税の税収が景気によって大きく変動するのにくらべ、消費税収は安定しているため、福祉の財源に適しているともいわれている。
安心の財源は消費税を中心にと考えるのは、以上の理由からだ。
ただし、消費税には大きな副作用があることを忘れてはならない。貧しい層ほど負担の度合いが重くなる「逆進性」である。その欠点を抑えるために、以下のような対策をとる必要があろう。
まず、消費税に軽減税率を導入して、日常の生活必需品は5%のままに据え置く。国民の理解を得るためには、コメや小麦粉といったとりわけ基幹的な食料は、思い切って非課税にすることも考えていい。
次に、消費税を引き上げるだけではなく、直接税も強化していく。各種の税金のバランスをよくすることが、税負担を公平にするには大切だからだ。所得税はこの20年ほど最高税率が何度も引き下げられ、所得が多くなるにつれ負担が重くなる累進の度合いがなだらかになった。課税所得を小さくする控除も拡大・新設された結果、91年度に約27兆円あった所得税収が、06年度はほぼ半分の14.1兆円へ減っている。
いま問題の格差を是正する働きも、所得税にはある。国と地方を合わせた最高税率50%はすでに先進国のトップ水準にあり、強化といっても限度があるが、強化で得た財源は、消費税負担が重い貧しい層への対策に使うこともできる。
同様に、バブルの時代に課税を緩和した相続税も見直して、格差が次の世代へ過度に引き継がれて社会が階層化しないようにすることが大切だ。
これらの増税分は、すべて福祉の「安心勘定」へ繰り入れる。消費税率の水準は他の増税との兼ね合いで決まってくるが、中福祉中負担の欧州諸国は、仏19.6%、独19%、英17.5%と、2けた台の後半まで上げてきた。
初めに書いた福祉の財政需要増20兆円は、消費税にして6~7%にあたる。いずれは消費税が10%台になることを覚悟するしかあるまい。
増税するときは、景気の腰を折らないかいつも心配になる。かつて日本経団連は「消費税を毎年1%ずつ上げる」というシミュレーションを示した。
このように小刻みにして、例えば「2年に1%ずつ」とあらかじめ示せば、事業者が計画的に対応でき、経済への影響も抑えられるのではなかろうか。
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この秋、自民党と民主党の党首が「大連立」を話し合った動機には、実は消費税の増税も念頭にあったのではないか。
増税、とりわけ消費税の導入や引き上げは政治の鬼門である。今までこれに取り組んだ内閣は短命に終わったり、世論の猛反発を受けたりした。両党とも、その怖さを知り抜いている。
最近、自民党の財政改革研究会が構想をまとめた。10年代半ばをめどに、消費税率を上げて福祉財源に全額投入するという。一方、現在は増税を否定する民主党も、年金財政を賄うため消費税の3%増を打ち出した時期がある。将来と真剣に向かい合おうとすれば、負担増は避け難いということだろう。
だれしも増税は嫌だ。だが政党には責任がある。20年後を見すえ、福祉の水準とそのための負担をパッケージにして示し、国民の納得を得る。政権をめざす政党は、それを選挙で競うべきだ。
放置すれば、財政が破綻(はたん)し住民サービスがまともにできなくなった北海道夕張市のように、国全体がなってしまう。
残された時間は少ない。希望社会を子どもたちに残すため、いま大人の私たちが解決策を出さなくてはならない。
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