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2007年12月18日 (火)

ベネズエラ憲法改正国民投票、その後―日本にも求められる「国民の意思に基づく政治」(追加)

 12月2日に行われたベネズエラの憲法改正国民投票は、投票率が約56%で結果は以下のようなものでした。

2007年12月11日(火)「しんぶん赤旗」

憲法改正国民投票の最終結果

 ベネズエラの全国選挙評議会が七日に発表した国民投票の最終結果は、以下の通りです。投票は二つの部分に分けて行われました。

【ブロックA】賛成49・34% 反対50・65%

【ブロックB】賛成48・99% 反対51・01%

 2006年12月3日の大統領選挙では、投票率が74・97%、得票(率)がウーゴ・チャベス7,161,637票(62・89%)、マヌエル・ロサレス4,196,329票(38・85%)ですから(データはここここ)、大雑把に言って、大統領選で700万対400万だったものが、今回の国民投票では400万対400万になったことになります。

 この結果とその後のベネズエラ政府の対応によってベネズエラ政治にもたらされた最大の成果は、チャベス大統領の進めてきた「国民の意思に基づく政治」がさらに大きく前進したことだと思います。

 一方で、チャベス大統領が小差の敗北を受け入れ、さらには「反省と自己批判をはじめ」、他方、チャベス反対派からも、投票結果は「排除や特権のない民主的変革の始まりを特徴付ける」と指摘されたり、「すべてのセクター(部門)がどういう国をめざすかを一緒に議論する機会だ」、「政府と話し合い、社会と国民全体に役立つ国のモデルづくりを進める用意がある」という声が上がったりしているからです。

 日本の政治が、あくまでも「国民の意思」に逆らい、「アメリカの意思」や「財界・大企業の意思」に従おうとしているのとは180度異なります。

 この点において、日本の政治もベネズエラの政治を模範として欲しいものだと思います。

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(追加)

 それにしても、憲法改正案について勝手な推測により素朴な感想を述べるなら、この改正案の眼目は下に引用したリストの6番にある「地区住民評議会を中心とする人民権力の創設」にあったのではないかと思えます。

 ところが、実際には、1番の「社会主義」という用語や2番の「大統領の再選規制の撤廃」に議論が集中し、肝心の「人民権力の創設」はほとんど理解されなかったのではないかと思います。

 「人民権力の創設」に眼目があったと思うのは、もともと社会の変革は少数の政治家によって成し遂げられるものではなく、大多数の国民が現実に変革に参加しない限り成し遂げられないものですし、このことをチャベス氏は理解しているのではないかと推測されるからです。

 変革をサボタージュし汚職する、国・地方・企業の役人や幹部たちの力を削り、国民自身に力を与えて、国民自身の手で国民の利益になる変革を推進していく、これがチャベス氏が持つ変革のイメージであり「社会主義」のイメージだったのではないかと思います。しかも、これと結びつく形で、リストの2番、3版、4番にある大統領の地位・権限の強化があったのではないか。

 しかし、この改正案は国民に受け入れられませんでした。今後は、下に引用するしんぶん赤旗の連載記事にある集団指導体制の確立、また統一社会主義党の発展という形で、この変革のイメージが追求されていくのではないかと思います。

2007年12月2日(日)「しんぶん赤旗」

憲法改正案 目的と内容
(引用に当たって連番を振りました-saru注)

 ベネズエラ憲法改正案の目的と主な内容は以下の通りです。

【目的】

1、資源の貧困層向け再配分を強める。

2、住民の直接的な発言力を保障するため政治権力を分散化させる。

3、発展と民主主義のため、平等で新しいモデルの法的基盤を整備。

【主な内容】

1、ベネズエラの社会経済体制は社会主義、反帝国主義、人道主義を基本とする。

2、大統領任期を六年から七年に延長。連続再選は一度とする再選規制を廃止。

3、公職の罷免投票制度は維持。実施に必要な署名数を選挙人の10%から20%に引き上げる。

4、大統領が宣言する非常事態時に知る権利を制限。

5、選挙権を十八歳から十六歳に引き下げる。

6、地区住民評議会を中心とする人民権力を創設。地方自治体は問題解決のために国家資産を活用できる。

7、私有財産権は引き続き保障。ただし正当な理由が認められる場合は、適切な補償をしたうえで政府が接収できる。

8、社会計画や人道的開発の推進のため、中央銀行の自律性を制限し政府の管理下に置く。

9、社会的利益に反する大土地所有は禁止。天然資源は国家の所有とし、国営石油会社の民営化は、部分的であっても認めない。

10、一日の法定労働時間を八時間から六時間に短縮。

 ベネズエラの国民投票後の動きを伝えるしんぶん赤旗の記事を引用しておきます。

2007年12月11日(火)「しんぶん赤旗」

ベネズエラ・国民投票
国を左右する大激論(上)
「反省と自己批判の時」

 二日に行われたベネズエラの国民投票では、小差とはいえ、政府が提案した憲法改正案が否決される結果となりました。チャベス大統領が国民の信を間う投票によって敗北するのは初めてのことです。何がこの結果をもたらしたのか、ここからどんな教訓をみちびけばいいのか、など与野党を巻き込んだ議論が続いています。社会主義や国のあり方をめぐる国民的な大討論は、この国の民主的な変革にとって貴重な新たな経験となりました。

 「反省と自己批判をはじめる時だ」。ベネズエラのチャベス大統領は五日、テレビでこうのべました。

革命勢力に衝撃

 「二十一世紀の社会主義を展望して革命を深化させるため」として大統領が提案した憲法改正案。二日の国民投票で否決されたことが革命勢力に衝撃を与えています。反対票は昨年の大統領選での野党候補票からそう増えていないのに、賛成票は大統領が得た票を約三百万票も下回り、棄権が増えました。

 「政府の貧困対策に共感し、チャベス大統領を支持しているが今回は棄権した。社会主義の導入や再選制限撤廃に賛成できなかったから。かといって野党の呼びかけにこたえるのもいやだった」。投票後、反対派の集会にきていた二入の女子大生が口をそろえました。

 「結果は大統領への支持が無条件的なものではないことを示した。大統領の再選制限の撤廃は、かつて独裁者や支配者が権力に居座り続けられるよう画策してきた長い歴史をもっている国だけに、国民には受け入れがたいものだった」。ベネズエラ中央大学のロペス・マヤ歴史学教授は地元紙でこう指摘しました。

 反対運動をリードし続けた学生運動のリーダーらは、「国民は、改憲によって社会主義モデルを唯一の選択肢として押し付けられると受けとめた」といいます。憲法に社会主義を盛り込むのは、複数主義の原則を踏みにじるものだという批判は根強くありました。

 エルナンデス国会第二副議長の顧間をしているヘスス・ヘルマン氏は、投票までの期間が短すぎたとふりかえります。

「政治的飛躍だ」

 三十三条の大統領提案の発表は八月十五日でした。国会審議で加えられた別の三十六条が順次承認されたのは十月半ばからで、それらはまとまって発表されることもありませんでした。こうしたプロセス自体が非民主的だとする反対派の批判につながりました。

 ヘルマン氏はまた、「最大与党だった第五共和国運動が政党の体をなしていなかったので、集団指導体制のとりようがなかった」として「大統領と少数による側近政治」の現実を指摘。同時に新党、統一社会主義党の結成や「人民権力」の創設は大統領の提案であり、集団指導体制の必要性は大統領も痛感しているはずとしています。

 これまで一貫して変革を支持してきたベネズエラ共産党と「みんなのための祖国党(PPT)」は国民投票後、革命の集団指導を求めました。PPTのアルポルノス書記長は「集団的指導部の確立は現在の政治的発展の一部だ」と強調しています。

 チャベス大統領は、改正案が否決されたことについて、「おそらく公然と社会主義プロジェクトを開始するほどわれわれは成熟していないということだ」と述べました。「約半分の人が社会主義に投票したのは政治的飛躍だ」と強調しつつも、広範な国民にとっては性急すぎる提起だったという意味でしょう。

(カラカス=松島良尚)

(つづく)

2007年12月12日(水)「しんぶん赤旗」

ベネズエラ・国民投票
国を左右する大激論(中)
「民主主義が機能した」

 「権力を独占して大衆迎合を続ける独裁者が、小差の敗北を受け入れるとは思わなかった。チャベスを尊敬する」

 ベネズエラ革命を冷笑してきた米紙のコラムニストは、二日の国民投票の結果を論評して、米国も教訓を学ぶべきだと書きました。

 ベネズエラの国民投票をめぐって、革命を推進してきた賛成派、反対派の双方が評価しているのは、国民の声を聞く民主主義が機能したという点です。

一歩一歩進める

 チャベス政権が国民に信を問うのは今回が十二回目。これまでは政権側が常に大差で勝利していました。それだけに今回、わずかな差での敗北をチャベス陣営が率直に受け入れたことは、国民の支持を問いながら社会進歩を一歩一歩進めるやり方が定着しつつあることを実証する出来事でした。

 エルナンデス国会第二副議長は、「今回の国民投票で、政府の民主主義性が明確になった。野党はもう『独裁』批判はできない。改正案反対ということから、かつて反対していた九九年憲法とその民主主義性を事実上認めたことにもなった」と指摘しました。

 実際、反対派のリーダー的存在であるチャカオ市のロペス市長は、投票結果は「排除や特権のない民主的変革の始まりを特徴付ける」と指摘。「九九年憲法に息を吹き込もう」と語りました。

 改正反対運動を進めてきた学生運動のリーダー、スターリン・ゴンサレスさんも、「大統領は敗北を認めた。すべてのセクター(部門)がどういう国をめざすかを一緒に議論する機会だ」と述べました。

 賛成派が敗北を認めたことは、チャベス大統領が「独裁」の道を開こうとしているという反対派の攻撃の根拠を崩すと同時に、政策をたたかわせて国の針路を探求する方向性を強化しました。

「重要な試金石」

 米州機構のインスルサ事務総長は五日、野党がチャベス大統領を独裁だと批判していただけに、同大統領が結果を認めるかどうかは「重要な試金石だった」と指摘。結果を「ほぼ即座に」認めたことで「民主主義が機能した」と称賛し、「ベネズエラの国民投票が模範となることを希望する」と語りました。周辺諸国も同様の指摘をしています。

 第三国のある外交官は「最近は選挙そのものが選挙評議会と政府の癒着で疑われていた。今度の結果は小差での反対派の勝利をチャベスが率直に認めたことでそうした疑惑を払しょくする積極的な意味をもった」と語っています。

 野党勢力のなかからも「政府と話し合い、社会と国民全体に役立つ国のモデルづくりを進める用意がある」(社会主義運動=MAS)といった声も出始めました。

(カラカス=松島良尚)

(つづく)

2007年12月13日(木)「しんぶん赤旗」

ベネズエラ・国民投票
国を左右する大激論(下)
「結果は将来への教訓」

 「今回、政府はやりすぎだと思ってノーにいれました。でもチャベスは好きです。口汚いところがあるけど貧困対策などの成果をあげてきた。大統領選挙があればまた彼に投票します」

底堅い国民支持

 反対派の集会に参加していた二人の幼稚園の先生が言いました。政府の改憲提案に反対ないし棄権した人のなかにも、政府がすすめてきた国民生活重視の国づくりへの支持は底堅いものがあります。

 ラテンアメリカ各国の国民意識を比較調査しているラティノバロメトロの最新報告によると、現在経済状態がよいと考えている人の割合は、ベネズエラが52%台でダントツの一位。二位のブラジル26%の二倍です。「富の分配がどれだけ公平か」の項目でも、「公平」と「きわめて公平」をあわせた回答が55%でトップ。二位のボリビア30%を大きく引き離しています。

 「国民が公正に扱われているか」「国家に問題解決能力があるか」「政党にたいする信頼度」「司法にアクセスする機会の平等」でいずれもトップを占め、「民主主義への満足度」はウルグアイに次いで二位となっています。

変革の成果鮮明

 こうした成果は、チャベス政権が米国や多国籍企業の支配から脱し、石油を中心とする資源の輸出収入を国民生活中心に配分することで達成されたものです。

 チャベス政権打倒をねらった反革命クーデターや石油スト直後から、経済は急回復を始め、二〇〇四年、18・3%、〇五年、10・3%の高度成長を続けています。

 最近ではインフレや一部での食料品不足などがみられ、今回の国民投票での改憲案否決につながったとの意見もきかれました。しかし国連中南米カリブ委員会の最新の報告では、政権が発足した一九九九年から昨年までに貧困世帯は約18ポイント減の26・2%、貧困人口は19ポイント減の30・2%に減少しました。国家統計局によれば、今年十月の失業率は前年同月比1・7ポイント減の7・2%まで下がりました。

 特に国民生活重視への転換で、チャベス政権下(九八年―〇七年)での社会支出は毎年平均19%アップしました。

 全国に一万六千配置された「人民の店」では、市価より30%低い価格で生活必需品を販売、キューバ人医師の支援をえて、九八年に入口一万四千人に一人だった医師の数は千三百人に一人まで上昇、無料の医療活動で国民の健康不安が大幅に軽減しました。

 米州機構(OAS)のインスルサ事務総長も、多数の棄権について、改憲案への不賛成であっても「チャベス政権への拒否とは誰も思わない」と指摘しています。今回は"罰"として「ノー」に投票したという冒頭の二人のような人を含めて、変革の成果そのものが否定されたわけではなく、投票の半数が社会主義を掲げた改憲案を支持したことをも含めて、「将来へのたたかいの教訓になる」とみる人も多いのです。

(カラカス=松島良尚)

(おわり)

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コメント

第64条に規定された選挙権の18歳から16歳への引き下げを含む2007年の国民投票が否決された、ということをいくつかのブログで知ったのですが、このことについて改めて検索している途中に、その後2009年にも憲法改正を問う国民投票があってこちらは小差で可決されたことを知りました。当初はこの2つの国民投票を混同していました。この投票に関するネットの記事(日本語のものしか読んでいないのですが)64条についての言及がないので、選挙権年齢については手をつけなかったのかそれとも選挙権引き下げについては日本人一般の関心を引く話題ではないとしてあえて割愛しているのかがわかりません。僕自身は、大統領が社会主義を推し進めるのはちょっと、と思うのですが選挙嫌悪16差うへの引き下げは大いに先進的な試みとして2007年国民投票の話を知ってから注目していたところです。18歳選挙権が成り立つのなら、政治的教養度などが大して変わらないはずの16-17歳への付与もアリだと思っているものですから、まさか18歳選挙権の引き下げを明記したことが2007年国民投票の一番の問題点となったのではないでしょうね。

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