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2007年10月 8日 (月)

教科書検定への政府・文科省の政治介入を排除しなければならない

 もう昨日のことになってしまいましたが、しんぶん赤旗に近藤正男記者が論説を書いています。「沖縄戦の教科書問題、政治介入したのは誰か」。しんぶん赤旗はずっとこう主張してきた訳ですが、引用しておきます。

 近藤さんは、「集団自決」が日本軍の強制によるものであるとの記述が教科書から削られたのは、大学教授などから成る教科用図書検定調査審議会の公正な審査に基づく意思によるものではなく、文科省の職員である教科書調査官の意思に基づくという、政府も認める実態を指摘し、記述削除が政府・文科省の自作自演であると述べています。

 その上で、この記述削除が従来の文科省の態度と180度異なることを指摘し、この態度変更の理由が、戦争賛美に歴史をゆがめる右派勢力の2005年以来の運動と、それと同じ立場に立つ安倍政権の成立にあると述べています。

 同様のことは、例えば、参院選直後の西沢享子記者の2回にわたる記事にも書かれています(7月30日、31日)。最近TBをいただいた「どこへ行く、日本。」というブログにも引用されていますが(6日の記事2日の記事)、僕のブログでも改めて引用しておきます。

 西沢さんは、文科省調査官が検定意見の根拠としている裁判は文科省自身の基準から言っても根拠となり得ないことを指摘し、また同じく検定意見の根拠としている学説については、「集団自決」が日本軍の強制によるものであることを否定する学説など全くないことを指摘します(記事の(上))。

 その上で、今回の記述の削除は、「新しい歴史教科書をつくる会」などの運動と、それと同じ立場に立つ安倍内閣、文科省によるものであることを述べています。

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2007年10月7日(日)「しんぶん赤旗」

焦点 論点
沖縄戦の教科書間題
政治介入したのは誰か

 文部科学省の教科書検定で沖縄戦での「集団自決」に日本軍の強制があったとする記述が削除された問題が、政治の熱い焦点となっています。

 先月二十九日、十一万人が参加した沖縄県民大会は、日本軍の強制を削除した検定意見の撤回と記述の回復を県民の総意として求めました。

 福田首相は衆参の本会議代表質問で問われ、「沖縄県民の思いを重く受け止め、文部科学省でしっかり検討している」と答えましたが、文科省の態度は"教科書会社から訂正申請がなされれば適切な対応をとる"というものです。問題の所在をあいまいにする、あまりに無責任な対応です。

政府の自作自演

 衆院代表質問で志位和夫委員長が明確に指摘したように、この問題を引き起こした責任は政府・文科省にあります。

 二〇〇八年度から使用する高校教科書の検定に際し、教科用図書検定調査審議会の場に「沖縄戦の実態について誤解するおそれのある表現である」という調査意見書を持ち込んだのは、文科省の教科書調査官自身です。

 審議会ではたいした議論もなく、この意見どおりの検定意見が付され、教科書から「日本軍によって集団自決に追い込まれた住民もあった」とか「日本軍に集団で自決を強いられたものもあった」などという日本軍の強制に関する記述が削除されました。

 政府自身がこの問題についての答弁書で、「審議会では…委員から特段の異論はなく、当該指摘と同じ内容の検定意見を付すことが適当としたものである」と認めています。記述削除は、いわば文科省の自作自演です。

 それを、"教科書会社から訂正申請があれば…"などと、まるで教科書会社や執筆者の責任であるかのようにいうのは、本末転倒です。

 文科省の責任で、間違った検定意見を撤回し強制記述を回復させるのが当然です。

 見過ごせないのは、歴史的にも県民の体験からも明々白々の事実を、文科省がなぜ削除したかという問題です。

 沖縄戦にかかわる教科書記述をめぐっては、一九八一年度の検定で日本軍の住民虐殺記述が削除される事件が起きました。島ぐるみの抗議行動に発展し、文部省(当時)はついに是正表明に追い込まれる事態となりました。その際、小川平二文相はこう表明しました。

 「筆舌に尽くしがたい苦しみを味わわれた沖縄県民の方々の心の痛手ということに、十分な配慮がなされなければならない…次の検定の機会に県民の方々のお気持ちに十分配慮して検定をおこなうつもりです」(八二年九月十六日、参院決算委員会)

 以降、文科省が建前としてきた沖縄戦に関するこの基本的な認識が、昨年の教科書検定に際して、突然、乱暴に覆されたのです。

背景に右派勢力

 符節の合う、いくつかの動きがありました。ひとつは、戦争賛美に歴史をゆがめる「新しい歴史教科書をつくる会」につながる右派勢力が、〇五年以来、沖縄戦の「集団自決」での日本軍の責任を消し去ろうというキャンペーンをはじめたことです。

 これに連動するように、同年、元日本軍の隊長らが作家の大江健三郎氏や岩波書店を名誉棄損で訴えました。この一方的訴訟を、文科省は「当時の関係者が訴訟を提起している」と検定意見の根拠のひとつとしてあげています。

 昨年九月、「戦後レジームからの脱却」をかかげた安倍政権が誕生しました。戦争賛美の「靖国」タカ派政権のもと、文科省の担当官が右派勢力の意をくんで、南京大虐殺や日本軍「慰安婦」間題に続き、歴史の書きかえを沖縄戦でも一気に成し遂げようと策動した結果ではないのか。教科書検定に対する、これほど乱暴な政治介入はありません。

 いま政府・与党や一部右派メディアは、検定意見の撤回と記述の回復を求める沖縄県罠や広範な世論にたいし、「政治介入」などと悪ばを投げかけていますが、最初に政治介入したのはだれなのか。

 沖縄県民や広範な世論が求めているのは、この政治介入を取り消す措置をとれということです。責任のがれの「政治介入」論は成り立ちません。(近藤正男)

2007年7月30日(月)「しんぶん赤旗」

沖縄戦「集団自決」
教科書検定の異常(上)
強制否定の学説なし

 文部科学省が、来年四月から使われる高校日本史の教科書検定で、沖縄戦の「集団自決」への日本軍の強制・関与の記述を削らせたことに対し、沖縄県議会が二度にわたり「検定意見撤回・記述復活」を決議するなど、強い怒りが今も続いています。今回の検定の異常さを改めて検証します。

学問的根拠なし

 今回の検定で文科省は、「日本軍により集団自決に追いやられた」「日本軍に『集団自決』を強いられた」などの記述を「追いつめられて集団自決した」などに変えさせました。日本軍の関与を消し、戦況に追いつめられて自決したととれる記述にしたのです。

 教科書調査官は、「軍隊から何らかの強制力が働いたような受け取られ方をされるので、避けてほしい」などと、出版社に記述を変えるよう求めました。

 この検定意見の根拠について文科省は、「渡嘉敷島と座間味島で自決を命じたとされている二人の隊長の命令について、現在、さまざまな議論があり、軍の命令があったかどうか断定できないから」(四月十一日、銭谷真美・初等中等教育局長=当時)と国会の審議で説明しました。

 文科省がいう「さまざまな議論」の一つは、自決命令を出したとされている本人と遺族が、事実無根だとして、岩波書店などを名誉棄損で訴えた「沖縄戦集団自決訴訟」(二〇〇五年八月提訴)です。

 しかし、これまで教科書検定では、文科省自身が「係争中の裁判にかかわるものは、教科書に書くな」としてきました。裁判は検定意見の根拠にはなりえません。

 沖縄県議会が七月六日におこなった座間味村の現地調査で、当時の村の助役の妹が証言するなど、住民は「軍命があった」と証言しています。

 文科省が根拠としてあげるもう一つは、「近年の著作で、隊長命令の有無は明確でないとするものがある」というものです。その著作として、教科書調査官が出版社に示したのは、林博史・関東学院大学教授の『沖縄戦と民衆』(二〇〇一年)でした。

自決用の手榴弾

 林教授はいいます。「二人の隊長が、『いま、自決せよ』と命令したかどうかは、現時点では断定できない。しかし、この本にも書いたように、渡嘉敷島では軍曹が住民に手榴(しゅりゅう)弾を配り、『いざとなったら自決しろ』と指示している。これは軍命そのものだ。軍の武器を勝手に民間人に渡せば犯罪であって、自決用の手榴弾が広範に配られたのは、軍の方針だったからだ」

 日本軍は投降を禁じ、投降しようとする住民を殺しました。また住民は、米軍の捕虜になれば「男は戦車にひかれ、女は暴行されて殺される。その前に自決せよ」と軍から繰り返し聞かされていました。

 「いざというときは自決せよという軍の命令、脅迫、誘導が集団自決を引き起こした。隊長命令の有無にかかわらず、日本軍によって『集団自決』が強制されてきたことを明らかにしてきた研究の蓄積を踏まえて、定着してきたのが、これまでの教科書記述だ。この間、それを書き換えるような学説などまったくない」と林教授はいい切ります。

 検定は、日本軍が住民に「自決」するよう繰り返し命令、強制してきたことに目をつむり、二人の隊長の直前における命令の有無を、軍の強制・関与全体にすり替え、軍の強制・関与そのものを教科書から消したのです。

(つづく)

集団自決 太平洋戦争最終盤、一九四五年三月二十三日の米軍の慶良間諸島攻撃から三ヶ月におよぶ沖縄戦の中で、同諸島を中心に「集団自決」が起きました。住民が手榴弾などにより集団で自爆、老人や子どもの首を切るなどし、座間味、渡嘉敷など同諸島だけで約六百人が犠牲になったといわれます。

2007年7月31日(火)「しんぶん赤旗」

沖縄戦「集団自決」
教科書検定の異常(下)
背景に「靖国」派の圧力

 沖縄戦にかんする、あまりに学問的根拠に欠ける文部科学省の教科書検定。教科書執筆者や教科書問題にかかわる人たちは、「これまでのやり方からしても異例」「文科省への何らかの圧力なしには考えにくい」と口をそろえます。異例の検定の背景に何があるのか。

「官邸が改める」

 昨年九月の安倍内閣発足を目前にした八月二十九日、東京都内で「新政権に何を期待するか?」と題するシンポジウムが開かれました。そこで、下村博文・現官房副長官は「安倍さんの教育改革は官邸機能を強化して行われる」「自虐史観に基づいた歴史教科書も官邸のチェックで改めさせる」と発言しています。(「産経」二〇〇六年九月四日付)

 このシンポジウムは、安倍晋三氏のブレーンとされる八木秀次・「新しい歴史教科書をつくる会」元会長らが呼びかけ人となった団体の主催です。下村氏のほかに、安倍内閣で教育問題担当の首相補佐官となった山谷えり子氏や「沖縄集団自決訴訟」の原告弁護人を務める稲田朋美衆院議員ら「靖国」派がパネリストでした。

 「新しい歴史教科書をつくる会」などは、「沖縄集団自決軍命令説」を、「南京虐殺」「従軍慰安婦強制連行」と並ぶ「『自虐史観』象徴の三点セット」と位置づけ、これらに関する教科書の記述を変えさせることを目標に掲げてきました。

 同会の現会長・藤岡信勝氏は、〇五年五月に沖縄の現地調査を実施。同年八月提訴の前記裁判を支えるなど、沖縄問題をターゲットに、教科書の記述を変えさせるべく活動してきました。

 教科書検定で検定結果を決めるのは、形としては、大学教授などからなる教科書検定調査審議会です。しかし、今回、文科省が明らかにした資料により、文科省職員である教科書調査官がまとめた「調査意見」(「日本軍は…日本軍のくばった手榴(しゅりゅう)弾で集団自害と殺しあいをさせ、」は「沖縄戦の実態について誤解するおそれのある表現である。」など)が、そのまま「検定意見」として追認されている実態が裏づけられました。

 今回、日本史を担当した調査官の一人は、「つくる会」の歴史教科書の執筆・監修者と、同じ研究グループで研究していたことを文科省も認めています。

世論が動かす

 検定意見の撤回・記述回復を求める沖縄の怒りの声は収まりません。

 過去に、不当な検定が内外の批判で撤回に追い込まれたことが三回あります。(表参照)

 出版労連の吉田典裕・教科書対策部事務局長は「学説が変わっていないのに教科書を書き換えさせたのは、政治的圧力以外に考えられない。記述復活には世論の盛り上がりが決定的です」と強調します。(おわり)(西沢亨子)

事例 是正の方向
1981年 高校「現代社会」の教科書で、全面削除された公害企業名が復活 文部省が教科書会社に「正誤訂正」するよう通告
1982年 高校「日本史」の教科書検定で、日本の中国侵略を「進出」と書き換えさせたり、沖縄戦における日本軍の住民虐殺の記述を削除させたが、内外の批判を浴び、「政府の責任で是正する」という官房長官談話を発表。検定基準に「近隣のアジア諸国に配慮する」という条項を新設 次の検定で是正
1986年 「日本を守る国民会議」(日本会議の前身)のつくった高校教科書『新編日本史』を検定合格後に再修正させる 首相の指示により、文相権限で特別措置

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