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2007年10月 4日 (木)

沖縄戦「集団自決」教科書検定問題、検定意見を撤回すべし

 この問題、野党4党も国会決議案の取りまとめに入ったようです。

 色々あるようですが、やはり9月29日の県民大会の決議に沿った内容でまとめるのが筋でしょう。それこそが、政治的立場を超えた、当事者たる沖縄県民の総意と言うべきものですし、この総意は客観的事実を踏まえたものであるからです。

 従って、単なる記述の回復ではなく、検定意見が撤回されるべきです

 そこで、この決議全文を以下に掲載しておきます。

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 また、mahounofuefukiさんがご自分の「世界の片隅でニュースを読む」というブログで、分かりやすくまとめられています。引用自由だそうなので、こちらでもリンクすると共に引用しておきます。

10月3日「教科書検定の徹底検証を」

9月30日「教科書改竄の『黒幕』」

大会決議文

 去る三月三十日,文部科学省は、平成二十年度から使用される高等学校教科書の検定結果を公表したが、沖縄戦における「集団自決」の記述について、「沖縄戦の実態について誤解するおそれのある表現である」との検定意見を付し、日本軍による命令・強制・誘導等の表現を削除・修正させている。

 その理由として同省は、「日本軍の命令があったか明らかではない」ことや、「最近の研究成果で軍命はなかったという説がある」ことなどを挙げているが、沖縄戦における「集団自決」が、日本軍による関与なしに起こり得なかったことは紛れもない事実であり、今回の削除、修正は体験者による数多くの証言を否定し歪曲しようとするものである。

 このため、これまで口を閉ざしていた多くの体験者が子供たちに誤った歴史を教えることの危機感から、辛い体験や真実をようやく語り始めている。

 また、去る大戦で国内唯一の地上戦を体験し、一般県民を含む多くの尊い生命を失い、筆舌に尽くしがたい犠牲を強いられた県民にとっても、今回の削除・修正が到底容認できるものではないことから、激しい怒りを示し、そのうねりは県内全体を揺るがす力となって、沖縄県議会での二度の意見書決議、四十一の市町村議会全ての意見書決議へと結びつき、さらには県内地方四団体や民間団体が相次いで文部科学省へ要請するなど、県民が一丸となって取り組む結果となった。

 これに対し、文部科学省は「教科用図書検定調査審議会が決定することであり、理解していただきたい」との回答に終始し、検定意見の撤回と「集団自決」に関する記述の回復を拒否し続けている。

 また、今回の教科書検定に際して、文部科学省はあらかじめ合否の方針や検定意見の内容を取りまとめた上で同審議会に諮問していること、諮問案の取りまとめに当たっては係争中の裁判を理由にし、かつ、一方の当事者の主張のみを取り上げていること、同審議会では「集団自決」の議論が全くなされていなかったことなど、新たな事実が相次いで判明したのにもかかわらず、依然として対応を改めようとしていない。

 教科書は未来を担う子供たちに真実を伝える重要な役割を担っている。だからこそ、子供たちに、沖縄戦における「集団自決」が日本軍による関与なしに起こり得なかったことが紛れもない事実であったことを正しく伝え、沖縄戦の実相を教訓とすることの重要性や、平和を希求することの必要性、悲惨な戦争を再び起こさないようにするためにはどうすればよいのかなどを教えていくことは、我々に課せられた重大な責務である。

 よって、沖縄県民は、本日の県民大会において、県民の総意として国に対し今回の教科書検定意見が撤回され、「集団自決」記述の回復が直ちに行われるよう決議する。

平成十九年九月二十九日

九・二九教科書検定意見撤回を求める県民大会実行委員会

教科書検定の徹底検証を「世界の片隅でニュースを読む」2007.10.03)

高校用日本史教科書の検定で、沖縄戦の「集団自決」に関する記述が軍の関与を隠蔽する内容に改竄された問題は、教科書出版社が記述の「訂正申請」を行い、教科用図書検定調査審議会が再審査する方向で決着するようだ。
沖縄の人々の行動が世論を動かし、ついに政府の野望を打ち砕いたわけだが、これで一件落着ではない。

この問題に対する最近の閣僚の発言をよく読んでみよう(文言は朝日新聞による)。

「沖縄の皆さんの気持ちを何らかの方法で受け止め、修正できるかどうか、関係者の工夫と努力と知恵がありうる」(10月1日 町村信孝内閣官房長官)
「(検定に)政治的介入があってはいけない。しかし、沖縄県民の気持ちを考えると、両方ともものすごく重い」(10月1日 渡海紀三朗文部科学大臣)

いずれも「沖縄県民の気持ち」への配慮を前面に押し出しているが、検定そのものの間違いには触れていない。これでは、まるで「検定意見は間違っていないが、沖縄県民がうるさいので仕方なく直す」とでも言っているようなものだ。
問題は「気持ち」ではなく、検定結果が「事実」かどうかである。政府が本音ではまったく反省していないことは明白だろう。

沖縄戦に関する最近の研究状況は「沖縄戦の事実を歪める教科書検定の撤回を求める歴史研究者・教育者のアピール」(歴史学研究会)が端的に示しているので、一部引用しておく。

沖縄戦における「集団自決」の悲劇は、沖縄県民にとって忘れることのできないものであり、そのため、この悲劇がなぜ、どのようにしておこったのかについては、体験者の証言をはじめさまざまな角度からの調査研究が進められてきた。その結果、住民が戦闘にまきこまれるなか、日本軍の「軍官民共生共死」という基本方針のもと、敵の捕虜になることの禁止が徹底され、軍が手榴弾を配付し、あるときは役場職員を介して自決指示を出したなどの事実が明らかになった。それにより、軍が直接住民にその場で自決命令を発したか否かにかかわりなく、「集団自決」がまさに日本軍に強制・誘導されたものであったことが明確になったのである。日本軍が存在しなかったところでは「集団自決」がおきていないこともそのことを証明している。

軍による「集団自決」強制を否定したい人々は、「玉砕しろ」という軍命令の公文書が残っていないことをもって、「軍の強制」を否定しているが、それは問題の矮小化である。激烈な地上戦のさなかで文書など残りようもないことを悪用しているのだ。しかも「玉砕を命令していない」という軍人の証言は採用するくせに、圧倒的多数の住民の証言は無視する。

沖縄戦に限らず、問題を狭くとらえ、一部を否定することで、全部を否定しようとするのが歴史修正主義の常とう手段である。
1937-38年の南京戦及び占領下における大量虐殺事件(南京大虐殺)では、出征軍人の日記や部隊の陣中日誌などから虐殺を否定できなくなると、捕虜の処刑は「虐殺」でないなどと言い出したり、南京市の人口を低く見積もったり、「数の問題」にすり替えようとした。日本軍専用性的「慰安」施設=「慰安所」問題では、公文書により軍の命令で設置されていた事実を否定できなくなると、「慰安婦」を強制連行したかどうかに論点をすり替え、しかも「強制」の定義を「無理やり縄で縛って連行する」ような「狭義の強制」に狭めようとした。一方で、朝鮮の「拉致問題」では、騙されて渡航した事例も「拉致」としているのだから、矛盾もはなはだしい。

歴史学界の通説が「軍の強制」を認めているにもかかわらず、なぜ今回のような検定が行われたか、徹底した検証が必要だ。
以前にも指摘したように、教科用図書検定調査審議会の委員・臨時委員や文部科学省の教科書調査官の人選には疑念がある。また検定意見原案を文部科学省初等中等教育局長が決裁していたことも問題だ。これは検定への「政治的介入」にほかならない。国会で調査し、場合によっては関係者を参考人招致することも必要だろう。
特に教科書調査官が文部科学省の職員である現行制度の是非は問わなければならない。その人選の透明化も必要だ。
この問題を単なる「軍の強制」の記述の復活で終わらせてはならない。

教科書改竄の「黒幕」「世界の片隅でニュースを読む」2007.09.30)

文部科学省が2008年度の高校用日本史教科書の検定で、沖縄戦における軍による住民の「集団自決」強制の史実を改竄したことに抗議する沖縄県民大会が、昨日宜野湾で開催された。参加人数は約11万人。知事や県議会を含む超党派による行動で、まさに沖縄全県の人々のこの問題に対する怒りが今や沸点に達していることを示していよう。
私もこの検定結果に怒りを感じていた1人として、沖縄県民の思いに全面的に共感している。

今回の教科書検定の不可解さは、同じような記述が前回の検定を通過しているのに、今回は修正されたことにある。
文部科学省の「高等学校歴史教科書に関する検定結果(平成18年度)」によると、沖縄戦に関し、日本軍による「集団自決」の強制や住民殺害を示す記述はいずれも「沖縄戦の実態について誤解するおそれ」があるという検定意見が付されている。たとえば「日本軍によって壕を追い出され、あるいは集団自決に追い込まれた住民もあった」という記述が「そのなかには日本軍に壕から追い出されたり、自決した住民もいた」と修正されている。
軍の関与を少しでも隠蔽しようという意図が明確だ。

教科書検定制度は、教科書発行者(出版社)が申請した教科書を、まず常勤の教科書調査官が「調査」し、それをもとに教科用図書検定調査審議会が「審査」し、合否を決定する。その際、教科書の内容に「修正」が必要であると判断した場合、審議会は教科書発行者に検定意見を通知する。この通知に従って発行者は内容を修正し、再度審議会が審査して合否を決定して、文部科学大臣に答申する(教科書検定の手続)。検定意見に従わなければ合格できないから、この意見は絶対なのである。

問題はこの教科用図書検定調査審議会は有名無実化し、検定の実務を担う教科書調査官が決定的な役割を果たしていることにある。
検定 審議実態なし/小委、文科省意見を追認 (沖縄タイムス)
今回も審議会の日本史小委員会は、沖縄戦に関し特に議論することなく、調査官の検定意見原案を素通りさせたことが明らかになっている。しかもこの小委員会自体が2006年10月30日と11月13日の2回しか開かれていない。
官僚主導 黙る「素人」 (沖縄タイムス)
審議会が単なる「事後追認機関」と化していることがわかるだろう。要するに史実改竄の主役は教科書調査官なのである。

それでは、この教科書調査官とはいったいどんな人なのか。
この件について共産党の赤嶺政賢衆院議員が、7月3日に提出した質問主意書で調査官の氏名公開を政府に求めた。
沖縄戦の強制集団死(「集団自決」)をめぐる文部科学省の検定意見に関する質問主意書
これに対し、政府は7月10日付の答弁書で、日本史担当の調査官が高橋秀樹、照沼康孝、三谷芳幸、村瀬信一の4氏であることを明らかにした。
衆議院議員赤嶺政賢君提出沖縄戦の強制集団死(「集団自決」)をめぐる文部科学省の検定意見に関する質問に対する答弁書

CiNiiReaDによれば、このうち、高橋秀樹氏は『中世の家と性』などの著作がある日本中世史の研究者、三谷芳幸氏は「令制官田の構造と展開」などの論文がある日本古代史の研究者である。専攻からしてこの2人はおそらく近・現代史の調査に関係していない。
問題は残る2人である。照沼康孝氏は「宇垣陸相と軍制改革案」「鈴木荘六参謀総長後任を繞って」などの論文がある。また村瀬信一氏は『帝国議会改革論』などの著作がある。いずれも日本近代史の研究者である。
この2人のどちらか、あるいは両者が沖縄戦史実改竄の「犯人」とみていい。

ところで、この照沼、村瀬両氏からある人物が浮かび上がってくる。両者とも東京大学大学院人文科学研究科の国史専攻の出身である。彼らの「師匠」が、現在政策研究大学院大学教授の伊藤隆氏である。
多少でも日本近代史をかじったことのある人で、伊藤隆氏の名を知らない人はいないだろう。1971年に東京大学文学部助教授に就任、81年には教授となり、93年に停年退官するまで、20年間も東大国史科の近代史専攻の教員として君臨し、多くの業績をあげ、後進を育てた「大御所」である。特に史料発掘の功績は大きく、政治家・官僚・軍人の日記や書簡をいくつも紹介、翻刻した。現在、昭和天皇研究に欠かせない『牧野伸顕日記』や陸軍研究の第1級史料である『上原勇作関係文書』など伊藤氏が中心となって発掘した歴史資料は数えきれない。その門下からは現在第1線で活躍する研究者が何人も輩出しており、「伊藤一門」というべき一大学閥を形成している。照沼、村瀬両氏もその伊藤門下である。

この伊藤氏は、東大史学の伝統である官学アカデミズム流の「実証主義」の系譜をひく研究者である。「実証主義」とは何よりも徹底して史料に基づいて事実を明らかにすることを重視するが、残存する史料はどうしてもエリートに偏り、民衆の史料は残りにくい。しかも政治史偏重になりがちである。
この「実証主義」固有の弱点に加えて、伊藤氏の場合、若い時から猛烈なナショナリストであり、学術概念としての「ファシズム」「大正デモクラシー」を否定し、左右を問わず「革新」を嫌い、「現状維持」を好んできた。
その保守的体質から、自民党タカ派(たとえば中曽根康弘氏)と結びつき、一貫して国家の側からの近代史像を打ちたててきた。
軍事史を得意としながら、日本軍の戦争犯罪の研究をまったく無視し、ついには「実証主義者」であるはずが、実証的研究よりも「国家の都合」を重視する「新しい歴史教科書をつくる会」に参加するまでになった。

「新しい歴史教科書をつくる会」と教科書検定の関係については、4月25日の衆議院沖縄及び北方問題に関する特別委員会で、民主党の川内博史議員が、教科書調査官の村瀬信一氏が「つくる会」教科書の監修者である伊藤氏と師弟関係にあることを追及している。
166回国会 教育再生に関する特別委員会 平成19年4月25日
しかし、既に述べたように、伊藤門下なのは村瀬氏だけではなく、照沼氏もそうである。ついでに言えば、有名無実化している教科用図書検定調査審議会の委員・臨時委員にも、駿河台大学教授の広瀬順晧氏や九州大学大学院教授の有馬学氏といった「伊藤一門」の研究者が顔をそろえている。
ここから想定できるのは、伊藤氏が教科用図書検定審議会委員や教科書調査官の推薦を行っているのではないかという疑惑である。少なくとも文部科学省が伊藤氏に人選の相談をしている可能性は高い。そうでなければ日本史担当の教科書調査官の半数が同一門流出身というのは異常である。
「伊藤一門」のすべてが「つくる会」を支持していたわけではないが、学界における師弟関係は絶対的なものがある。彼らが伊藤氏を批判することなどありえない。要するに「つくる会」があろうとなかろうと、伊藤氏の影響力がある限り、今回のような検定がいつでも起こりうるのである。

周知の通り「つくる会」は血みどろの内部抗争を繰り返し、今年ついに分裂した。
伊藤氏は既に分裂前の昨年3月に「つくる会」の理事を辞任しており(つくる会の体質を正す会)、現在は八木秀次氏らの「改正教育基本法に基づく教科書改善を進める有識者の会」に参加している(産経新聞)。これまで「つくる会」の教科書を発行してきた扶桑社は、新組織の方に鞍替えした。今後は「つくる会」とこの新組織が競合し、共倒れになる可能性が強いが、伊藤隆と「伊藤一門」という存在がある限り、教科書検定の歪みは正されることはないだろう。

今一度、かつての家永教科書訴訟の原点に立ち返って、教科書検定制度の廃止を検討するべきではないか。

なお、沖縄戦の史実を学びたい人には、次の2冊を推薦する。
林博史 『沖縄戦と民衆』 大月書店、2001年
藤原彰 『沖縄戦 国土が戦場になったとき 新装版』 青木書店、2001年


<沖縄>集団自決で検定意見撤回求め県民大会 11万人参加 (エキサイトニュース)

野党、国会決議提出へ/「集団自決」検定撤回(沖縄タイムス 2007.10.04.夕刊)

 【東京】民主、共産、社民、国民新の野党四党は四日夕の国対委員長会談で、沖縄戦「集団自決(強制集団死)」についての教科書検定に関する国会決議案を取りまとめる方向で最終調整に入った。五日の参院議院運営委員会に諮り、同日中にも参院に共同提出する。教科書の記述を審議する教科用図書検定調査審議会での再検討や教科書検定規則の見直しなどを盛り込んだ内容になるとみられる。参院は野党が過半数を占めており、本会議に提出されれば、成立する可能性が高い。
 与党も賛成できるような案文をまとめ、全会一致での採択を目指すとしている。

 民主党は四日午前、国会内で「次の内閣」(NC)の文部科学部門会議を開き、小宮山洋子NC文科相が国会決議について、民主党案を報告した。

 同案は「『集団自決』の事実を正しく伝え、沖縄戦の実相を教訓とすることの重要性や平和を希求することの必要性を子どもたちに教えていくことはわれわれに課せられた重要な責務である」と指摘。審議会での再検討や教科書検定の手続きの見直しを含めた改善などを求めている。

 民主党内には、記述を削除させた検定意見そのものの撤回を求めるべきだとの意見もあったが、「検定に政治が踏み込むことになる」との慎重論が強く、審議会で再度検討するよう求めるにとどめた。

 共産党は二日の野党国対委員長会談で、「教科書検定意見撤回を求める県民大会」の決議に沿った内容が好ましいとの考えを伝えていた。

 社民党も県選出・出身の山内徳信参院議員、照屋寛徳衆院議員が三日までに案文の調整を進めていた。

検定 審議実態なし/小委、文科省意見を追認
沖縄戦研究者は不在/政府の説明に矛盾
(沖縄タイムス 2007.09.12)

 文部科学省が高校歴史教科書の沖縄戦における「集団自決(強制集団死)」について、日本軍の強制をめぐる記述を二○○六年度の検定で削除させた問題で、検定を担当した教科用図書検定調査審議会(教科書審議会)の日本史小委員会では「集団自決」の記述について審議委員の話し合いはなく、意見も出なかったことが十一日、分かった。文科省の教科書調査官が検定意見の原案を示して説明し、そのまま意見が素通りしていたことが明らかになった。沖縄タイムス社の取材に、教科書検定審議会日本史小委員会の複数の委員が初めて証言した。=教科書検定問題取材班

 日本史小委員会は十人以下の大学教授らで構成され、うち四人がアジア太平洋戦争など日本近現代史の専門家。だが、沖縄戦について詳しく研究した委員は皆無だ。文科省は全審議委員の氏名、所属は公表しているが、担当教科・科目や部会、小委員会の審議内容はこれまで明らかにしていない。

 委員の一人は「日本史担当の審議委員の中に沖縄戦を専門としている先生はおらず、議論のしようがない」と振り返った。その上で「日本史小委員会では『集団自決』に関する検定意見について教科書調査官の説明を聞いただけ。話し合いもせずに通してしまった。歯痒い思いだ」と語った。

 別の文科省関係者も、「日本史小委員会で『集団自決』についての具体的な議論はなかった。『調査官の意見、説明を聞いただけ』といわれればその通り。審議会では学問的な論争はしていない」と認めた。文科省はこれまで、「『集団自決』は日本軍の強制によるものだった」とする記述に対し「沖縄戦の実態について、誤解する恐れのある表現である」と検定意見をつけ、日本軍の強制に関する記述を削除させたことについて、「学術的な検討を得た審議会の決定」と説明してきた。

 伊吹文明文科相は、衆院文部科学委員会で「文部科学省の役人も安倍(晋三)首相もこのことについては一言も容喙(口出し)できない仕組みで教科書の検定は行われている」と答弁、政府の関与を一貫して否定し続けている。

 しかし審議会には検討の実態がなく、文科省から発案された調査意見が追認されただけであることが明らかになった。

政府の責任重い 山口剛史・琉球大准教授

 教科書審議会で審議されずに教科書調査官の発案を追認していたというのは予想通り。さも公平な審議がされたように説明してきた政府の責任は重い。国会で真相を明らかにし、これを機会に公平で開かれた審議会に改め、沖縄戦の正しい記述を取り戻すべきだ。

官僚主導 黙る「素人」
ここまで削られるとは…/軍強制 あっさり消滅
(沖縄タイムス 2007.09.12)

 「委員に沖縄戦の専門家はいない」「役所が検定を決めている」―。ベールに包まれた教科書検定の内幕が十一日、教科用図書検定調査審議会(審議会)日本史小委員会委員や文科省関係者の証言で初めて明かされた。委員会が実質的に沖縄戦の“素人”で構成され、文科省の教科書調査官が作成した原案に沿って「集団自決(強制集団死)」への日本軍の強制を削除する検定意見が付されていた実態。審議委員の一人は「ここまで軍の関与が削られるとは思わなかった。委員を引き受けるんじゃなかった」と本音をぶちまけた。=教科書検定問題取材班

 国際政治に詳しい審議委員は、都内の外務省施設で取材に応じた。

 「沖縄戦については委員から議論が提起された記憶がない」と委員会のやりとりを再現。「調査官の原案(調査意見書)に沿って粛々と進んだ」とあっさり認めた。

 関係者によると、調査官は同じ文科省職員から「先生」と呼ばれ、検定に絶大な権限を持っていることがうかがえる。

 この審議委員によると、近代日本史に関し、委員会で主な議論になったのは(1)イラク戦争への国連決議の有無(2)第二次世界大戦の呼称(3)南京大虐殺の犠牲者数―など。

 文科省は大阪で提起された「大江・岩波裁判」と検定との関連性を否定しているが、委員は「沖縄戦『集団自決』の説明で、調査官は大阪での裁判を理由の一つに挙げていた」と証言。文科省が係争中の事案を根拠に、調査意見を付していたことを明かした。

 委員は修正後の教科書を見て「あたかも関与がないがごとくの表現になってしまった」との印象を受け、「出版社が修正要望にあまりにも過剰反応しすぎた」と教科書会社側の責任に言及した。

 別の文科省関係者は委員の専門分野について「(沖縄戦を)きちんと研究した人はいない」と専門外の委員で審議したことを明かした。関係者によると、「集団自決」をめぐる日本軍の強制の削除について委員会では「特に異論はなく、議論も沸騰しなかった」という。

 一方で「私は検定には過剰な価値を見いだしていない。最終的な責任を負うのは審議会ではないのではないか」と指摘。審議会の決定を“錦の御旗”に掲げる文科省の「公式見解」に異を唱えた。

小委開催2回だけ

 文部科学省の検定意見は、二回の審議会日本史小委員会で決められていたことが十一日、分かった。沖縄タイムス社の情報公開請求に、文科省が二〇〇六年度の教科書審議会第二部会(社会科担当)と日本史小委員会の開催日時や場所を示した資料を明らかにした。

 開示資料によると、高校の日本史教科書について検定意見を決めた日本史小委員会は二〇〇六年十月三十日と十一月十三日の二回、いずれも都内ビルの会議室で開かれ、一回当たり五時間でそれぞれ六点と四点の教科書を対象に審議する予定になっていた。

 日本史担当審議委員によると一回目は全体の説明で「集団自決」への検定意見の説明は二回目にされただけだったという。

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