沖縄戦「集団自決」教科書検定問題、今の国会はこれが限界なのか?
民主党が単独でも出すとしていた、この問題に関する決議案は、「検定意見の撤回」と「記述の回復」を求めず「再検討」を求めるのみなので、4日の段階では共産党と社民党が持ち帰っていましたが、5日になると社民党はこの決議案を受け入れて、民主党と共に参院議院運営委員会に提示したそうです。
教科書検定:民主と社民が参院議運理に国会決議案を提示(毎日電子版)
沖縄戦で日本軍が集団自決を強制したとの記述が教科書検定で削除された問題で民主党と社民党は5日、参院の議院運営理事会で「記述について速やかに再度検討する」とする国会決議案を提示した。国会決議は全会一致が慣例だが、与党側は「検定への政治介入になる」として慎重な姿勢を示している。野党は参院で過半数を占めるが、多数決での採決に踏み切るかどうかは流動的だ。
決議案は民主党がまとめ、他の野党に共同提案や賛同を呼びかけた。共産党は共同提案には加わらないが決議には賛成する方針。与党側は持ち帰った。今後、理事会で取り扱いを協議する。
民主党の簗瀬進参院国対委員長は「与党も賛成してほしいので対応を待つ」と述べた。福田康夫首相が記述の見直しに柔軟姿勢を示しているため、与党側の出方をみて決議の提出時期を決める考えを示した。
理事会で民主党の西岡武夫議運委員長は、決議案について「歴史について参院が『こうすべきである』というようなことを決めるのには疑問がある」と発言し、同党内でも意見が分かれていることを示した。
毎日新聞 2007年10月5日 19時01分 (最終更新時間 10月5日 19時55分)
民主決議案 共同提出へ
社民(沖縄タイムス 2007.10.05.夕刊)【東京】社民党は五日までに、民主党が国会に提出する沖縄戦「集団自決(強制集団死)」の教科書検定に関する決議案を共同提出する方針を決めた。
四日の野党国対委員長会談で提示された民主党案に「検定意見の撤回」「記述の回復」が明記されていなかったため、共同提出するか対応を協議していたが、決議前文の趣旨部分に同様の認識が示されているため、賛同した。
しかし、「検定意見の撤回」と「記述の回復」という、9月29日の県民大会の決議が明示しているものを要求しないと以下のようなことになってしまいます。
「集団自決」軍強制 出版社、元の記述を困難視(琉球新報電子版 2007.10.05)
【東京】文部科学省の高校歴史教科書検定で沖縄戦における「集団自決」の日本軍強制の記述が削除・修正された問題で、渡海紀三朗文部科学相は4日午後の衆院本会議で「教科書業者から訂正申請があった場合、真摯(しんし)に受け止め適切に対処する」と言明するとともに、「(訂正申請に基づき)再度、教科書検定審議会の意見を聞くことになる」との方針を示した。教科書出版社は訂正を申請する方向で検討しているが、検定意見が撤回されない以上、元通りの記述復活は困難との見方を強めており、「軍の強制・強要」をあいまいにした表現にとどまる可能性が指摘されている。検定意見撤回による記述復活を求める声が根強い。
検定意見の撤回について福田康夫首相は「慎重に対応することが必要」と答弁。渡海文科相も「時の政権の意向で検定が左右されることがあってはならない」と、事実上否定した。太田昭宏(公明)、志位和夫(共産)、照屋寛徳(社民)、下地幹郎(国民新党・そうぞう・無所属の会)各氏の代表質問に答えた。
検定済みの教科書の訂正申請は「教科用図書検定規則」(文科省令)に基づき(1)誤記、誤植、誤った事実の記載(2)客観的な事実の変更(3)学習を進める上に支障となる記載―などを対象に行われる。
教科書出版各社の訂正申請は年間6万8千件(2006年度)に上り、申請の是非について専門家の意見が必要と判断された場合、教科用図書検定審議会の意見を聞く。
教科書出版社は県民大会決議に基づき「軍の強制・強要」を明確にした記述に戻す方向で訂正申請を検討している。しかし、文科省は「今回の教科書検定の過程は妥当」との立場から検定意見の撤回には否定的。そのため県民の意向を踏まえた訂正申請が可能なのか疑念が広がっている。
ある教科書出版社の編集者は「県民の意向を踏まえ、納得してもらえる形で訂正申請をしたい。しかし、検定意見が生きている以上、元の記述に復活できるのか不確定だ。文科省との調整は難しい」と話す。
文科省は「訂正申請の内容とともに、申請理由についても説明を求めることになる。全く記述復活ができない、というわけではない」と説明している。
(10/5 9:38)
民主党がなぜ「撤回」と「回復」を求めないかというと、以下のように説明されています。
集団自決めぐる教科書検定、民主が「再検討」求める決議案(読売電子版)
民主党は4日午前、国会内で文部科学部門会議を開き、沖縄戦の集団自決をめぐる教科書検定問題について衆参両院に提出予定の国会決議の文案を決めた。
「検定の中立・公正性に疑義が生じている」として、検定意見を出した教科用図書検定調査審議会(文部科学相の諮問機関)に対し、「速やかな再検討」を求める内容で、4日夕に共産、社民両党などと国会対策委員長会談を開き、野党としての決議案をまとめる。
民主党の決議案は、集団自決について「日本軍による強制・誘導・関与等なしに起こりえなかったことは紛れもない事実」だとし、「集団自決の事実を正しく伝えることは我々の責務」と、政治の役割を位置づけた。
9月29日の沖縄県民大会では、高校日本史の教科書検定で集団自決に「日本軍の強制があった」とする記述が削除されたことに対して、検定意見の撤回と「集団自決」記述の回復を求めた。しかし、民主党では、「『撤回』を明確に求めれば政治介入と批判されかねない」との意見があったことから、「再検討」にとどめることにした。
(2007年10月4日11時14分 読売新聞)
検定問題、民主単独で決議案 他の野党も賛成の方向(琉球新報電子版 2007.10.05)
【東京】高校歴史教科書の「集団自決」検定問題で、民主、共産、社民の野党3党は4日午後、国会内で衆参国会対策委員長会談を開き、衆参両院に提出する教科書検定の見直しを求める国会決議案について協議した。
民主が提示した決議案に9月29日の県民大会で決議した「検定意見の撤回」「記述の回復」の文言がなかったため共産、社民は盛り込むよう主張。野党共同ではなく民主単独で決議案を提出する見通しになった。
共産、社民も民主案の趣旨には理解を示しており採決では賛成する方向。野党3党との共闘を「凍結」した国民新党も民主案に賛成する見通しだ。民主の決議案が提案されれば、野党が多数を占める参院では可決が確実な情勢だ。
民主の決議案は(1)審議会での再検討(2)省令で定める教科用図書検定規則など検定手続きの見直し―を求める内容。
会談後の記者会見で、民主党の川内博史国対副委員長らは「撤回」「回復」を盛り込まなかった理由について「検定済み図書の訂正の対象は誤字、脱字の場合で今回は該当しない。もう一度審議会を開くには検定規則の改正が必要だ。目的は同じだが手続き自体を見直さないと『撤回』『回復』はできない」と説明。「共同提出でなくても賛成はしてもらえる」との認識を示した。
(10/5 9:40)
しかし、この検定問題は、日本の侵略戦争を正しいものとしたい、いわゆる「靖国」派が、「従軍慰安婦」問題、「南京大虐殺」問題と共に、沖縄戦「集団自決」の真実を、その特殊なイデオロギーによってねじ曲げようとしているという問題であることは明白です。
検定意見を付けた文科省の教科書調査官自身が明らかに「靖国」派の立場に立つものであり、政府等の中にいる「靖国」派と呼ぶべき政治勢力が、本来公正であるべき教科書検定に対して、まさに政治介入したものであるはずです。
このことは以下の事実からも明らかでしょう。
つくる会「検定意見の撤回拒否を」 文科省に申し入れ(朝日電子版 2007年10月04日19時01分)
沖縄戦で日本軍が住民に「集団自決」を強制したとの記述が教科書検定で削除された問題で、「新しい歴史教科書をつくる会」は4日、文部科学省に対して検定意見の撤回をしないよう申し入れた。記者会見した会長の藤岡信勝・拓殖大教授は「軍の命令や強制がなかったことは実証された史実」であり、教科書会社による訂正を認めることは「検定制度の枠組みを外部の圧力によって有名無実化することになる」と述べた。
従って、この「靖国」派による教科書検定への政治介入を排除することこそが求められているのです。
この民主党と社民党の提示した決議案は、この「靖国」派の政治介入の排除という課題を解決できるような内容を持つものではありません。
先の安倍内閣であからさまかつ極端に現実化した、日本の侵略戦争を正当化するという、自民・公明による政治の根本的な問題の1つを克服することはできないのです。この決議案は、先の参院選で明らかにされた「自民・公明による政治の拒絶」という民意を実現するには不十分であることは銘記されるべきです。
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