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2007年10月 9日 (火)

尾崎芙紀「パレスチナの内部抗争と背景―米主導の和平会議の狙い」(『経済』2007年10月号)

 この論文は先月号の『経済』に書かれたものですが、執筆者ご本人の許可を得てこのブログに掲載させてもらいます。僕は、尾崎さんが昨年の7月7日にしんぶん赤旗に書かれた論説を読んで以来この方のファンなんです。

 僕はパレスチナ問題について特に勉強したこともないのですが、昨年の選挙でのハマス勝利以来改めてこの問題に関心を持ち、報道を少しばかり熱心に読むようになりました。その中でこの昨年7月7日の記事は、初めて強く共感できるものだったのです。

 問題の根源が、ハマスやファタハの態度などにあるのではなく、あくまでもイスラエルのパレスチナ占領にあるという骨太の視点が記事にはっきりと表れているのがいいのだと思います。

 来月11月には、アメリカのブッシュ大統領提唱の中東和平国際会議が開かれる予定ですが、この間のアメリカとイスラエルの言動を見る限り、パレスチナ問題解決に向けての希望を何ら抱かせるものではありません。他方、極限にまで至ったパレスチナの内部抗争の行方も大いに気になります。

 尾崎さんのこの論文は、その背景を簡潔に解説してくれます。

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パレスチナの内部抗争と背景
    ──米主導の和平会議の狙い
(『経済』2007年10月号)

尾崎芙紀・日本共産党国際局員

 一九六七年の第三次中東戦争から四○年がたった。国連がパレスチナ国家の領土に定めているヨルダン川西岸とガザも、以来イスラエルの占領下にある。難民問題とともにパレスチナ・イスラエル問題解決の大きな障害となっているのが、この占領地に増え続けるユダヤ人入植地である。現在、東エルサレムを含む西岸には、パレスチナ住民の約五分の一に当たる四六万人の入植者が住むに至っている。

 最近まで旧ユーゴ国際刑事法廷の裁判長を務め、第三次中東戦争当時はイスラエル外務省の法律顧問だったテオドル・メロン氏はこのほど、「占領地への民間人の入植は国際法違反」と当時のイスラエル政府に警告していたと明らかにした。イスラエル政府指導部自身が当初から入植の違法性を認識していたことになる。

 統一が最も必要なときに、パレスチナ側でも重大な事態が起こっている。○六年一月、占領下の自治区の立法議会選でハマス政権が誕生して以来、武力抗争を繰り返してきたファタハとハマスが今年二月にいったんは和解、三月には全議会勢力による統一政府が誕生した。アラブ諸国もこれに呼応して数年来の統一和平案を再提案、和平進展への期待が高まっていた。その矢先の六月中旬、ガザで両者の対立が激化、武装闘争の末、ハマスが治安面の支配権を確立する政変が起きたのである。

 ファタハのアッバス自治政府議長はハマスを糾弾、三月来の統一政府を一方的に解体し、西岸にハマスを除く「非常事態政府」を樹立した。ハマスはこれを認めず、自分たちが戦ったのは、米国とイスラエルから武器や資金をもらってハマス政権打倒を画策してきたファタハ内の一部勢力だとのべ、対話と和解を求めたが、アッバス議長は拒否、ガザと西岸に二重権力構造が生まれる事態となっている。

武力対立の背景

 ハマスがガザを制圧した直後、カーター元米大統領は、「米国とイスラエルは、これまで欧州連合の黙認のもと、アッバス議長を政治的軍事的に強化してハマス政権を打倒しようとしてきた」と批判した。また「パレスチナ人の和解を進めることしか問題解決への道はないのに、アッバス議長とファタハを支援し、ガザとハマスを孤立させ、パレスチナ人の分断を狙っている」とものべた。アルバロ・デソト元国連中東特使も内部報告書で、米国のイスラエル偏向が国連などの和平仲介の公平性を奪ってきたとのべている。

 この問題は、○六年一月の立法議会選にさかのぼる。このとき初めて国政選挙に立候補したハマスがファタハに圧勝。全一三二議席のうち、比例代表ではほぼ互角だが、生活に密着した選挙区部分で大差がつき、結局ハマス七四議席、ファタハ四五議席となった。

 ファタハは六○年代以降、長らくパレスチナ人の運動を主導、国際的にも認知されてきた。しかし、この選挙では、これまでの和平交渉での戦略的誤りや腐敗汚職体質が有権者の厳しい審判を受けたと言われる。対するハマスは、イスラム的な枠組みで占領反対の運動を行ってきたが、地道な住民奉仕の活動が評価され、ファタハ支持層からも支持を集めた。

 民主的な選挙で政権についたハマスに対し、イスラエルと米・欧州連合は、経済や外交上の制裁を科し、制裁解除の条件として次の三点の受け入れを迫ってきた。①イスラエルの生存権の承認②過去の合意の尊重③暴力の放棄、である。これに対し、ハマスの指導者たちは繰り返し、自分たちの具体的な目標は、①イスラエルとの長期の停戦②難民の帰還権の保障③イスラエルが六七年に占領した領土へのパレスチナ国家の樹立、と明確にのべてきた。しかも○五年春以来、一方的停戦も行ってきた。

 それでもなお制裁を続けている欧州諸国のなかで、注目される動きが起こっている。八月一三日、英下院外交問題特別調査委員会が報告書を提出し、英国と欧州連合がハマスをボイコットしてきたことを強く批判、ファタハとハマスの武力対立についても国際社会に責任の一端があるとしたのである。

 今回の内部抗争は、外部からの干渉問題に加え、運動内部の長年の危機が反映したものである。パレスチナ人全体を代表する運動の今後はまだ見えてきていないが、和解の仲介も含め、各方面の努力が伝えられている。

米提唱の和平会議

 米国とイスラエルは、ハマスとガザへは制裁と封鎖を強化する一方、アッバス議長率いる西岸政府への優遇措置を次々と打ち出している。財政援助、ファタハ武装勢力の釈放、移動制限の緩和などである。

 こうしたなか、ブッシュ大統領は七月一六日、中東和平にかんする演説をおこない、今秋米国で中東和平国際会議を開催するとのべた。この会議には「暴力を否定し、イスラエルの生存権を認め、過去の合意を支持する」国と勢力だけが招待される。ブッシュ大統領は「パレスチナ人は、テロか民主主義かを選択するとき」「テロを否定する民主的な指導部ができれば、国家樹立への交渉を開始できる」とのべ、問題の根源である占領の終結とパレスチナ人の自決権と国家、それに基づく共存への視点は欠いたままである。

 パレスチナ統一政府で情報相を務めた第三政党のムスタファ・バルグーティ議員は、非常事態内閣への入閣を断った。ハマスとファタハの和解しか道はないと主張する同氏は、七月初旬米紙とのインタビューで「ハマスは二国家解決を受け入れる用意がある。彼らはイスラエルがパレスチナ人の対等な権利を認めたときに初めてそれを明言するだろう。いまイスラエルが望むパレスチナ政府とは、イスラエルの下請けの政府だ。そんな政府などわれわれは絶対につくらない」とのべている。

(八月一三日記)

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