映画「俺は、君のためにこそ死ににいく」―特攻の「真実」を特攻「賛歌」で置き換えるリアリティなき作品
1.
つまらない映画でした。旧態依然とした(僕が小学生の頃から見聞きしてきた)特攻賛歌が描かれているだけで、特攻の真実を追究したものではありません。
映画の製作者は、特攻の真実を描いたかのように言っていますが、この映画の脚本を書き製作総指揮をしたという石原慎太郎氏が映画の題名を「特攻賛歌」とすることも考えたことに現れているように(ブログ「有田芳生の『酔語漫録』」4月29日付)、あくまでも特攻「賛歌」が描かれており、特攻の「真実」が描かれている訳ではありません。
2.
映画は鳥濱トメさん(岸惠子)を語り部にしてそれを軸にしながら展開しますが、特攻隊員の姿は、第71振武隊の隊長・中西正也少尉(徳重聡)を中心としてその周囲の隊員とともに描かれます。
隊員の個々のエピソードは、赤羽礼子・石井宏・著の『ホタル帰る―特攻隊員と母トメと娘礼子』(5月26日の記事)にもある実話ですが、映画では組み立て直されて、人物も物語も映画製作者の創作となっています。従って、この映画を鑑賞して受ける印象は、この本の読後感とはまた異なるものです。
3.
物語は、この中西を中心とする隊員の知覧での様々な姿とその戦後が主要な部分となっています。
しかし、肝心のこの知覧での隊員たちの姿にリアリティが感じられません。
もちろんこの映画も、隊員たちが自分の自由な決断で特攻に志願したなどと描いているわけではなく、特攻の命令によって無理矢理死に直面させられ、その葛藤する姿を、周りの者のものも含めて描いています。
しかし、その決断を崇高なもの、美しいものと描くことにポイントがあるので、無理矢理不合理な死に直面させられた者の真情・真実の姿を描いたものとはとても思えないものとなっています。
葛藤を経ながらも、最後には、まるで自らの意思で特攻による死を選択したかのように描かれています。軍の命令によるものであって志願ではないという説明をしながら、最後には自らの選択のように描かれているのです。
結局、この知覧での隊員たちの姿は、全体として、色々な悩みを抱えつつも青春を謳歌している若者たちのように描かれています。とても特攻の真実を追究したものとは思えません。
また、この知覧での描写の中で気になったものの1つとして、憲兵隊に関わるものがあります。特攻隊員1人1人のことを思う鳥濱トメさんが憲兵隊の課する規則を守らず憲兵隊から弾圧され、それに怒った特攻隊員の板東勝次少尉(窪塚洋介)が憲兵隊に猛然と刃向かう場面です。しかし、このような抵抗は当時可能だったのでしょうか。今なら当たり前、少なくとも現実ではなく映画の中では当たり前と思えるような抵抗でも、当時は可能とは思えないような抵抗を描いているのもこの映画のリアリティを大いに減殺します。
4.
戦後の部分では、この中西が出撃するも結局生き残ってしまい、一時荒れた生活に陥ります。
最後は、中西が知覧基地跡に建てられた観音堂の夜の桜並木を、鳥濱トメさんの座る車椅子を押しながら、2人で対話する場面です。自分だけが生き残ったことに負い目を感じている中西に対し、トメさんは「理由があって生かされているんだからしっかり生きなさい、死んだ者もそれを望んでいる」という趣旨のことを言って諭します。そのとき、死んでいった多くの隊員たちの幻が2人の前に満面笑顔で登場します。また、その前には中西の夢の中に、同じ死んでいった隊員たちが後ろ向きに行進しながら登場し、次々と笑顔で振り返ります。
しかし、彼等は笑顔で死んでいったのでしょうか。また、死んだ後に笑顔でいるのでしょうか。もうここに至ると、「リアリティがない」といった程度のものではなく、明白に「虚偽」「作り話」だと言うべきです。
5.
以上のような「リアリティのなさ」「虚偽」「作り話」は、史実に反する戦争認識を基本にして、特攻「賛歌」を描きたいという、製作者の思いこみの強さによって生じているのだと思います。
実際、映画の冒頭、特攻の創始者とされている大西瀧治郎中将に、この戦争が白人支配からのアジア解放の戦争で、日本が負けるにしても日本の国体を歴史に銘記させるために、特攻という戦法を取らざるを得ない旨述べさせます。
この戦争が日本の領土拡張・他国支配を目的としたものでアジア解放を目的としたものでないことは、今日議論の余地のない事実です。アジア解放などというのは戦争を引き起こした張本人である当時の日本政府の自己正当化の虚言に過ぎません。にもかかわらず、この映画からは、この虚言に対する批判的視点は窺えません。
さらに、3.に述べた知覧での物語を挟んで、この大西中将は終戦翌日、介錯なしで切腹により自殺したことがしっかりと描かれます。特攻の創始者が立派に責任を取ったと描いていると感じました。
これは、3.で述べた、特攻が最後には隊員たちの自発的決断であったかのような描き方と相俟って、特攻は軍による理不尽な死の強制だ、という事実を薄め忘れさせます。
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この映画を見て、確かに多少美化しているんじゃないかなと感じる部分はありました。が、それ以上に感じたのは、この映画の感想はもともとこの映画にケチつけようと思って書かれたのではないかということです。
突攻をよしとは思っていませんし、初めから喜んで志願したとは思っていませんが、戦争という狂気の中、戦時中の教育を受けた若者が、突攻の命令を受けた時どのようなことを考えたのだろうかと考えてみると、あながちこの映画の描き方も間違いではないように思えます。彼らは彼らの死の意味を考え、自分なりに突攻に意味を持たせていったのではないでしょうか。
投稿: po-li | 2010年6月 1日 (火) 01時12分
po-liさん、こんにちは。3年前の映画の感想に突然コメントが付いたのでちょっとびっくりしてます。「突攻」は「特攻」の間違いですね。「特攻(隊)」は「特別攻撃(隊)」の省略形ですから。
「この映画の感想はもともとこの映画にケチつけようと思って書かれた」とのことですが、そうではありません。
この記事は、この作品を公開当時に映画館で見ながら、「これは違う、おかしい」と感じたので、その受けた感じを、この作品のどういう点にどうしてそう感じたのかをあれこれ自分で考えながら、かなり時間をかけて、なるべく作品の内容に即して、自分なりの言葉にしたものです。「これは違う」とか「これはおかしい」と書いただけでは、あまりに内容のない感想になるかと思ったのでそうしました。
po-liさんは、「多少美化して」いても、「あながちこの映画の描き方も間違いではない」と思われたとのことですが、僕にはそのような感想は持てませんでした。アジア太平洋戦争に対する認識・把握・理解に相違があることがその背景にあるのかもしれませんね。po-liさんの「戦争という狂気の中、戦時中の教育を受けた若者が」という記述は、この作品に対してもこの戦争の事実に対しても、po-liさんはかなり不正確・不十分な認識・理解しか持ってないのだろうと僕に思わせました。また、「突攻」という極めて初歩的な誤りも一層そう思わせます。
po-liさんのコメントは、僕のこの記事に単に「ケチをつけ」たいがために、正確な知識を得る努力もせず、また問題をまじめに考えることもなく、書かれたものかもしれませんが、もし本当に僕の特攻に関するその他の作品への感想に興味がおありなら、このブログの右横の欄の下の方に「カテゴリー」という項目があり、その中に「政治1(日本15-日本の侵略戦争-特攻) 」という項目を作ってありますので、そこをクリックしてみて下さい。この映画への感想を含めて10件の記事を書いています。
投稿: saru | 2010年6月 1日 (火) 22時44分