カテゴリー「政治1(日本15-日本の侵略戦争-特攻)」の10件の記事

2008年10月 2日 (木)

ドラマ「なでしこ隊-少女達だけが見た“特攻隊”封印された23日間」

 9月20日に放送されたもので、フジテレビの作る特攻のドラマということで、またかという気持ちで見る気にもならなかったのですが、結局見てしまいました。

 結果、予想に反して良くできているドラマでした。1つには、単なるドラマではなく、なでしこ隊のリーダーだった永崎笙子さんや実際に特攻として出撃して生き残った人達が生の声で語るドキュメンタリーが織り込まれていて、事実を正確に伝えようとする姿勢で作られていたのが良い点でした。もう1つは、特攻を美化する姿勢が無く作られているのが良い点でした。特攻と言うと、昨年石原慎太郎氏によって作られ上映された「俺は、君のためにこそ死ににいく」のような、特殊なイデオロギーによって事実を偽り、特攻や侵略戦争を美化・正当化するプロパガンダ作品も多いのですが、このドラマはそのようなものではありませんでした。

 ここ数年、民放で作られる戦争をテーマとした特別ドラマを見ていると、事実を元にしながらも、飽くまでも今の視点から制作者の主張を前面に打ち出してフィクションとして作られ、その分リアリティーが減殺されているものと、もう少しリアリティーに重点を置いたものがあり、だんだん後者の方向に流れてきているように思えるのですが、このドラマは幾分前者の傾向を持ちながらもドキュメンタリーを挿入することによってその欠陥を補ったものと言えるでしょうか。

 さらに事実を正確に把握し、深めて行きたいものです。

 ドラマのホームページは以下のURL。

   http://wwwz.fujitv.co.jp/nadeshiko/

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2007年8月31日 (金)

映画「出口のない海」

 いい映画でした。ラストの映像と語りでうまくまとめていると思いました。このラストで無言館が思い浮かびました。

 戦争の時代や人物がリアルに描かれているかという点では、最近の他の映画やドラマと同様大いに疑問が残ります。

 しかし、この映画を見ながら思ったことは、戦争を描く作品において、リアルに描くということは確かに大切なことですが、戦争にまつわる事実について、原作者、脚本家、監督がどう思ったか、考えたかを描くのも1つのやり方かもしれないということです。この映画はまさにそういう映画として見ればよいのだろうと、ラストを見ながら思いました。

 市川海老蔵さんがなかなか良かった。

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2007年8月 1日 (水)

映画「TOKKO 特攻」(追加)

 ドキュメンタリーです。1967年生まれのリサ・モリモト監督の個人的で素朴な問題意識から出発し、その問題意識と格闘しながら作られているが故に、特攻とそれをもたらしたあの戦争の真実に迫っているものだと感じました。

 当時のフィルムと写真がふんだんに使われ、また生き残った特攻隊員たちの率直な証言から構成され、また特攻攻撃を受けた元アメリカ兵の率直な証言もあって、リアルで考えさせられます。

 アメリカには特攻が自殺願望のある狂人によるものだという理解が未だあるというのは、かえってこちらが驚いてしまいますし、また現代の自爆テロについても同様の狂人によるものという理解がなされているようなのは、特攻についても自爆テロについても真実が探られるべき必要性があることを思わせます。

 他方、日本においては、特攻は無私無欲の殉難者だという、当時の戦争と特攻を推進した責任者が作り出した政治的プロパガンダが未だに信仰されている以上、やはりこのような素朴な視点から真実が追究されることが必要で有意義なものです。

 映像も証言も貴重なもので、再度じっくり見たいと思わせられました。

 今回特に印象に残ったのは、江名武彦氏が、出撃時の事故で生き残り、再び出撃すべく基地に戻る途中、たまたま被爆翌日の広島を半日見て、戦争は絶対やってはダメだという趣旨の決意を持ったと言われていたことでした。憲法9条は多くの日本人のこのような体験と決意に支えられているのだと改めて思わされました。アメリカに強く要求されるがままに憲法9条を改定しようとすることは、このような多くの日本人の痛苦の実体験と決意を根本的に踏みにじるものなのだということを僕たちは理解しておかなければならないと思いました。

 また、浜園重義氏と中島一雄氏は、戦後警察予備隊から海上自衛隊まで勤め上げた方々ですが、出撃したとき目標のアメリカ艦隊に到達する直前にアメリカ軍戦闘機に発見されて空中戦となり、ぼろぼろになって帰還せざるを得なくなって引き返したそうです。浜園氏は撃墜されなかったのはアメリカ兵の故意によるものではないかと信じているそうです。この帰投の途中2人は出撃する陸軍特攻機とすれ違うのですが、中島氏はその時「引き返せ。どうせ目標の艦隊までたどり着けない」と言いたくて仕方なかったそうです。

 この中島氏は、「なぜ天皇はもっと早く戦争を終わらせる決断をしなかったのか」とも率直に語ります。

 上島武雄氏は、特攻の命令を受けてから実家に帰ったときに、どうしてもこのことを両親に言えなかったそうです。よほどこみ上げるものがあるのでしょう、このくだりだけ上島氏は日本語ではなく英語でインタビューに答えます。

 ともかく特攻と戦争の真実に迫ろうとして成功している映画でした。

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2007年6月17日 (日)

映画「俺は、君のためにこそ死ににいく」―特攻の「真実」を特攻「賛歌」で置き換えるリアリティなき作品

1.

 つまらない映画でした。旧態依然とした(僕が小学生の頃から見聞きしてきた)特攻賛歌が描かれているだけで、特攻の真実を追究したものではありません

 映画の製作者は、特攻の真実を描いたかのように言っていますが、この映画の脚本を書き製作総指揮をしたという石原慎太郎氏が映画の題名を「特攻賛歌」とすることも考えたことに現れているように(ブログ「有田芳生の『酔語漫録』」4月29日付)、あくまでも特攻「賛歌」が描かれており、特攻の「真実」が描かれている訳ではありません。

2.

 映画は鳥濱トメさん(岸惠子)を語り部にしてそれを軸にしながら展開しますが、特攻隊員の姿は、第71振武隊の隊長・中西正也少尉(徳重聡)を中心としてその周囲の隊員とともに描かれます。

 隊員の個々のエピソードは、赤羽礼子・石井宏・著の『ホタル帰る―特攻隊員と母トメと娘礼子』(5月26日の記事)にもある実話ですが、映画では組み立て直されて、人物も物語も映画製作者の創作となっています。従って、この映画を鑑賞して受ける印象は、この本の読後感とはまた異なるものです。

3.

 物語は、この中西を中心とする隊員の知覧での様々な姿とその戦後が主要な部分となっています。

 しかし、肝心のこの知覧での隊員たちの姿にリアリティが感じられません

 もちろんこの映画も、隊員たちが自分の自由な決断で特攻に志願したなどと描いているわけではなく、特攻の命令によって無理矢理死に直面させられ、その葛藤する姿を、周りの者のものも含めて描いています。

 しかし、その決断を崇高なもの、美しいものと描くことにポイントがあるので、無理矢理不合理な死に直面させられた者の真情・真実の姿を描いたものとはとても思えないものとなっています。

 葛藤を経ながらも、最後には、まるで自らの意思で特攻による死を選択したかのように描かれています。軍の命令によるものであって志願ではないという説明をしながら、最後には自らの選択のように描かれているのです。

 結局、この知覧での隊員たちの姿は、全体として、色々な悩みを抱えつつも青春を謳歌している若者たちのように描かれています。とても特攻の真実を追究したものとは思えません。

 また、この知覧での描写の中で気になったものの1つとして、憲兵隊に関わるものがあります。特攻隊員1人1人のことを思う鳥濱トメさんが憲兵隊の課する規則を守らず憲兵隊から弾圧され、それに怒った特攻隊員の板東勝次少尉(窪塚洋介)が憲兵隊に猛然と刃向かう場面です。しかし、このような抵抗は当時可能だったのでしょうか。今なら当たり前、少なくとも現実ではなく映画の中では当たり前と思えるような抵抗でも、当時は可能とは思えないような抵抗を描いているのもこの映画のリアリティを大いに減殺します。

4.

 戦後の部分では、この中西が出撃するも結局生き残ってしまい、一時荒れた生活に陥ります。

 最後は、中西が知覧基地跡に建てられた観音堂の夜の桜並木を、鳥濱トメさんの座る車椅子を押しながら、2人で対話する場面です。自分だけが生き残ったことに負い目を感じている中西に対し、トメさんは「理由があって生かされているんだからしっかり生きなさい、死んだ者もそれを望んでいる」という趣旨のことを言って諭します。そのとき、死んでいった多くの隊員たちの幻が2人の前に満面笑顔で登場します。また、その前には中西の夢の中に、同じ死んでいった隊員たちが後ろ向きに行進しながら登場し、次々と笑顔で振り返ります。

 しかし、彼等は笑顔で死んでいったのでしょうか。また、死んだ後に笑顔でいるのでしょうか。もうここに至ると、「リアリティがない」といった程度のものではなく、明白に「虚偽」「作り話」だと言うべきです

5.

 以上のような「リアリティのなさ」「虚偽」「作り話」は、史実に反する戦争認識を基本にして、特攻「賛歌」を描きたいという、製作者の思いこみの強さによって生じているのだと思います。

 実際、映画の冒頭、特攻の創始者とされている大西瀧治郎中将に、この戦争が白人支配からのアジア解放の戦争で、日本が負けるにしても日本の国体を歴史に銘記させるために、特攻という戦法を取らざるを得ない旨述べさせます。

 この戦争が日本の領土拡張・他国支配を目的としたものでアジア解放を目的としたものでないことは、今日議論の余地のない事実です。アジア解放などというのは戦争を引き起こした張本人である当時の日本政府の自己正当化の虚言に過ぎません。にもかかわらず、この映画からは、この虚言に対する批判的視点は窺えません。

 さらに、3.に述べた知覧での物語を挟んで、この大西中将は終戦翌日、介錯なしで切腹により自殺したことがしっかりと描かれます。特攻の創始者が立派に責任を取ったと描いていると感じました。

 これは、3.で述べた、特攻が最後には隊員たちの自発的決断であったかのような描き方と相俟って、特攻は軍による理不尽な死の強制だ、という事実を薄め忘れさせます

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2007年6月 4日 (月)

反戦イラク帰還兵に米海兵隊が脅し―特攻で死んだ人たちの無念を思う

 アメリカのイラク帰還兵が、自分たちが実際に体験してきたイラク戦争の実態をアメリカ国民に伝えようとしたところ、アメリカ海兵隊当局が懲戒処分をちらつかせて圧力を掛けてきたそうです。

 帰還兵は、「われわれは声をあげ続ける」と強調し、「イラクに送られた兵士たちは、報道されることもなく死に絶え、意見を持って帰ってくることも許されないのか」と兵士たちを沈黙させようとする軍を批判しているそうです。

 最近日本の侵略戦争時の特攻体験の本を読んでいる僕としては、未だに特攻と戦争の真実を隠したり曲げたりする行動が後を絶たず(たとえば、映画「俺は、君のためにこそ死ににいく」)、もはや声をあげることができない、特攻で死んでいった人たちの無念、を思いました。

 記事を引用しておきます。

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2007年6月 3日 (日)

城山三郎『指揮官たちの特攻』(新潮文庫)

 神風特別攻撃隊の第1号に選ばれた関行男大尉と、玉音放送後に最後の特攻隊員となった中津留達雄大尉の人生を対比させながら描いたドキュメントノベル。同時進行で著者自身の経験も書き込まれています。澤地久枝さんの解説も、この作品を正確に押さえたもので良い。

 淡々とした筆の運びで読み安く、また読み止められません。

 いろいろと印象に残る記述がありますが、特攻隊員たちの声なき声に耳を傾ける城山さんの思いには心を動かされます。中津の料理屋・筑紫亭の離れに、出撃前夜の特攻隊員が残した無数の刀疵(かたなきず)があり、それを、「泣きながら振り上げた刀。酔いのためはじかれた刀、さらに激して斬りつけた刀」と見、「なんで、なんで、おれが。なんで、えいっ!/掛け声とも、叫びとも、泣声ともつかぬ声」と聞き、「私は痛ましくて、たまらなくなり、ごめんね、ごめんね。心の中でつぶやきながら、刀疵を撫で続けた」と記します(p.p.131-132)。

 また、宇佐の練習航空隊が廃止されてその教官・教員が特攻編成され出撃の発令があったときの隊員たちの気持ちを、その当事者・岩沢辰雄の記した『海軍航空隊予科練秘話』から引用して、「皆酔いつぶれて私も夜中に目がさめた。すると寝床の中で泣いている者がいる。『お母さん』そう言って。いくら一人前の搭乗員といってもまだ二十前の少年である。昼間は一番張り切っていた彼が泣いている。私も泣き出した。それにつられていつの間にか皆泣いている」などと引用します(p.p.122-123)。

 さらに、2人の特攻隊員の父母や娘など遺族のその後の生活・気持ちも取材して記しています。これも控えめな記述であるが故に迫力のあるものです。

 しかも、これら当事者たちだけでなく、当時の軍高官の、人間を人間扱いできず、自己中心的に振る舞う、その動きや考え方も控えめながら的確に記しています。また、終戦のその日からの海軍士官・下士官の野卑・低劣な悪業も、自分の体験を述べます。

 総じて、詳細に取材・調査した上で、冷静に客観的に淡々と記述され、短く控えめながら、特攻とそれを強いた日本軍の真実を書いた作品です。

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2007年6月 2日 (土)

城山三郎『仕事と人生』

 特攻に関する本の1冊として、城山三郎さんの『指揮官たちの特攻』を読もうと思っていたところ、本屋でこの本が目についてたので買ってきて読みました。

 『本の旅人』に連載されたエッセイや『城山三郎 昭和の戦争文学(全6巻)』の月報に掲載された対談などを収録したもので、読み安いものです。

 城山さんは1927年生まれの方ですが、17歳の時に自ら徴兵猶予を取り消して海軍に志願、水中特攻「伏龍」の部隊に回されますが、紙一重のところで終戦を迎えて生き残ったという経験の持ち主です。

 その経歴からくる、戦争への怒り・悲しみと、戦争をもたらした言論統制への怒りが、淡々とした語り口の中に、しばしば迫力を持って語られています。

 たとえば、瀬口晴義『人間機雷「伏龍」特攻隊』(講談社)を読んだときのことを、「心の中に怒りと嘆きなど燃え上がるものがあって、これまでのように、海を穏やかに眺める気分は、吹き飛んでしまった」、「『ああ、本など読まなければよかった』と、まず思った。」、「彼等を『無縁の死者』として扱いたくなかった」、「彼等は、無縁の死者ではなく、私の中で往き、私を生かしてくれている」、「こうした思いを、一人にでも、二人にでも多く伝えたい」等と記しています(p.p.41-42)。

 あるいは、「戦後、茅ヶ崎に住む身となった私は泳ぎ好きで、春の彼岸から秋の彼岸まで一日も欠かさず泳いでいたのに、そこが伏龍特攻隊員の死場所であったと知ってからは、一度も泳ぎに出ていない」、「当時の指導者たちを、国民として許しておけない思いがするが、いかがなものであろうか」と述べます(p.p.61-62)。

 「本当のことを何も知らせてくれなかったから。本当のことを知っていれば、という恨みのようなものがあります。だから、やっぱり言論の自由というのは大事なんだとしみじみ感じました」と語ります(p.76)。

 城山さんの作品は、今まで読もうと思うことがありながら後回しにして読んできませんでした。やはり上記の全集を始めとして読んでみようと思いました。

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2007年5月29日 (火)

松岡利勝農水相の自殺―大西瀧治郎中将も自殺でした

 昨日は、松岡農水相の自殺で大騒ぎでした。単なる事務諸費や官製談合に止まらない、もっと大きな「何か」に関わっていたのでしょう。追い詰められた、ないしはその「何か」を自殺してでも隠し通さなければならなかった、といったところだと思います(マスコミなどでの噂・推測については、立花隆氏の「メディア ソシオ-ポリティクス」記事を参照)。

 要するに、自殺してまでも責任回避に終始した、ということです。

 僕はこの事件で、先の戦争での「特攻」の創始者として知られる大西瀧治郎中将が、裕仁さんによる敗戦発表の翌日(8月16日)に自殺したことを思い出してしまいました。考えようによっては、大西さんは自殺によって立派に責任を取ったことになりますが、果たしてそう言ってよいのか、と改めて思ったわけです。

 やはり、「自殺」というのは、「責任回避」の究極の形態と言うべきではないでしょうか。

 と書いていたら、朝日電子版の「緑資源の前身・森林開発公団の元理事が自殺」というニュースが飛び込んできました。これは「何か」の存在をますます疑わせる事態となってきました。

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2007年5月28日 (月)

映画「ホタル」

 赤羽礼子・石井宏『ホタル帰る―特攻隊員と母トメと娘礼子』を読んだので(5月26日の記事)、もう1度見直してみました。

 改めていい映画でした。高倉健、田中裕子、奈良岡朋子、井川比佐志と名優揃いで、しみじみと感じさせ、考えさせてくれるすばらしい演技をしていると思います。

 富屋食堂、朝鮮人の特攻隊員など実話に材料を得ていますが、映画の全体は1つの創作となっています。が、十分に想像力が働いており、1つの「真実」が描かれていると感じさせます。自然と涙させられ、心に染み入ります。

 現在上映中の「俺は、君のためにこそ死ににいく」も同じ知覧の特攻を描いています。いずれ独立の記事として感想を書きたいと思いますが、こちらの方は、制作者の特殊なイデオロギーによって「真実」が歪められている映画だと僕には思えます。しかし、この「ホタル」の方は、それとは段違いで、お薦めの映画です。

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2007年5月26日 (土)

赤羽礼子・石井宏『ホタル帰る―特攻隊員と母トメと娘礼子』

 数年前の降旗康男・監督の映画「ホタル」や、石原慎太郎・脚本・総指揮の映画「俺は、君のためにこそ死ににいく」に登場する鳥浜トメさんを軸に、知覧から飛び立った特攻隊員の姿を、石井宏氏が、トメさんの二女・赤羽礼子さんの口述などを基にまとめたもの。自ら苦労して育ち、献身的で世話好きなトメさんと特攻隊員の交流のエピソードを集めたものです。

 死を間際にした様々な特攻隊員たちの真剣さ・真面目さが伝わってきて涙を誘われ、また真面目な気持ちにさせられます。しかも、あくまでも暖かく・誠実なトメさんとの交流を軸に描かれているので、読みやすい。

 描かれている特攻の事実の深刻さ・重大さ故に、歴史の真実をつかむ意欲をかき立てられます。

 ただ、この本の戦後認識は、「ラジオからは『カム・カム・エヴリボディ』の歌が流れる。夜ともなれば『真相はこうだ』という番組が、旧日本軍の嘘や悪を暴き立てる。合法化された共産党の天皇制攻撃が始まり、『汝臣民飢エテ死ネ、朕ハタラフク食ッテルゾ』のプラカードがメーデーで掲げられ、ついに皇居前の“血のメーデー”に至る。教科書で不都合だと思われる叙述はスミで消され、スミだらけで読めない教科書になった。/“戦後”はこうして音を立てて“民主主義”に向かい、知識人たちがラジオや新聞で民主主義とは何か、自由とは何かをしたり顔に説く。軍国主義、帝国主義は目の仇となり、激しく非難攻撃される。天皇までが『神聖ニシテ侵スベカラズ』の旧憲法の地位から降格し、かつての現人神は“人間天皇”になった。音を立てて変わりゆく世の中にあって旧特攻兵士を語ることはタブーになった」(p.p.208-209)という風なものです。

 また、石井宏さんは、トメさんの再三再四の請願により知覧町が建てた観音像を、「特攻隊員を顕彰し、その霊を慰めることが公に認知された証」とします(p.217)。

 また、石井さんは、知覧特攻平和会館・初代館長で元特攻隊員の板津忠正さんの特攻資料収集に至る決意を、「特攻隊員として死んだ僚友たちの死をむなしいものにしてはいけない」、「世は逆風であり、軍国主義時代のすべては悪として葬り去られようとしている。しかし、高級職業軍人のやったことはともかく、特攻の死は崇高な死であり、これを風化させてはならない。これを正しく歴史の表面に出し、語り継げるようにしなければならない」と記し(p.220)、さらに、「『特攻』とは是非善悪いっさいを超越した無条件の悲しみなのである。人間のこれほどの大集団がこれほど崇高な存在と化して死んでいったことは、人類の歴史において一度たりともあったためしはないのだ」と述べます(p.10)。

 もちろん、特攻隊員の死は、断じて「犬死に」などではありません。また、石井さんが述べる通り、「自らの死をもって特攻隊員に詫びた(あるいは天皇に対して詫びた)潔い人たちが58人もいたのである。だが、たった58人かという声もある。そう、特攻作戦を立案した、実施した、あるいは現場で特攻隊員を選び、出撃の命令を与えた指揮官の多くは、おめおめと復員し、生き延びたのである」、「なんという卑屈さ。旧軍人も一皮むけばそんな卑屈な、いいかげんな手合いだったのである。そんな手合いのために、あまたの特攻隊員たちが若き命を散らせてしまったかと思うと、怒りは再び新たにな」ります(p.p.184-185)。

 しかしながら、この「卑屈」で「いいかげんな」「旧軍人」への「怒り」を「新た」にしながら、特攻隊員のかけがえのない生と死を尊び、感謝し、「霊を慰める」のは、特攻隊員の死を限りなく「崇高」なものとし、「顕彰」することによってではなく、あくまでも歴史の真実をつかむことによって成し遂げられる、と僕は思いました。板津さんの努力には遠く及ばないものの、努力せねばなりません。

 なお、冒頭に挙げた「ホタル」が、「“特攻の母”とうたわれた鳥浜トメとホタルになって帰ってきた特攻兵士の宮川軍曹や光山少尉などの話にヒントを得て、自由に書きおろした脚本によっている」のは、この本の「あとがき」に書いてあって知りましたが、「俺は、君のためにこそ死ににいく」も、この本にある話を基にしつつもやはり石原氏の創作であることも、この本を読んで知ることができました。

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